日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC26] 雪氷学

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)、谷川 朋範(気象庁気象研究所)、大沼 友貴彦(宇宙航空研究開発機構)、渡邊 達也(北見工業大学)、座長:砂子 宗次朗(防災科学技術研究所)

14:30 〜 14:45

[ACC26-04] 解析可能な全てのLandsat-8画像を用いた岩屑被覆氷河の熱抵抗値の統計的改良

*永井 裕人1,2佐藤 洋太2藤田 耕史3、Bhanu Pratop4、Sourav Laha4紺屋 恵子2、Oulkar Sunil4縫村 崇行5、坂井 亜規子3滝川 雅之2、Paramanand Sharma4 (1.立正大学 地球環境学部、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構 、3.名古屋大学大学院 環境学研究科、4.National Centre for Polar and Ocean Research, India、5.専修大学)

キーワード:ヒマラヤ、氷河、熱抵抗値、岩屑被覆

ヒマラヤ高山域では氷河上の岩屑被覆が大きな不確定性を与える。岩屑被覆は薄ければ低いアルベドで融解を促進させ、厚ければ断熱効果によって融解を抑制する。氷河上池や氷壁は融解速度増加に寄与する。従来研究では、岩屑表面の熱収支を衛星観測することによって熱抵抗値(TR: Thermal Resistance)を算出し、岩屑の厚さや熱伝導率の広域推定がされてきた。TRは地表面温度(Ts: Surface temperature)を地中熱流量(G: Ground heat flux)で除することで求められる(TR=Ts/G)。これは現地調査の難しい氷河に対しても広域適応させられる長所がある一方で、岩屑内部に直線温度勾配が仮定されており、TRの過小評価が指摘されてきた。そこで本研究では、様々なGに対してTsがどのように対応するかを統計的に分析し、熱抵抗値を改善する方向性を検討した。

本研究の観測対象はインドヒマラヤにあるBatal氷河 [32.34°N, 77.58°E; 4250-5800 m a.s.l.] である。これを観測した全てのLandsat-8画像(Path: 147; Row: 37/38; 2013年3月から2024年1月までの237シーン)と、該当日時のERA5-Land再解析データセットを用いて、地表面放射収支を計算する。下向き長波放射量は標高データ(AW3D30)で1グリッド約11 kmから30 mへダウンスケールし、標高による違いを反映させた。86箇所の岩屑厚現地計測点についてTRを求めた。なお被雲と凍結・積雪の影響がある画素も自動的に除去した。

解析の結果、ある岩屑被覆表面1地点における複数観測日のTsとGの関係をまとめてプロットすると、Gに対してTsが正の相関で増加する様子が確認された。夏に近いほどGとTsが上昇し、真冬はTsが氷点下であるため除外される。このTs/Gの分布が示す傾きは、異なる岩屑の厚さに対して正の相関があった。従来のTRと同じ単位を持つため、本研究ではこれを改良型TRとして提案する。

デブリ層が薄い場合(< 5 cm)、Gに対するTsの分布は比較的小さく直線に近くなる。これは岩屑下の氷が熱を効率的に吸収していることを示す。一方、岩屑が厚い場所では、Gが増加するにつれてTsが急激に増加する。いずれも回帰直線は原点[0, 0]を通らないので、これは定数項のない従来TR(TR = Ts/G)の改善を示唆する。本研究では、複数地点・季節を通じた統計分析により、異なる岩屑の厚さによる熱特性の違いを考慮したより現実に近いTRへの改良の方向性が示された。氷壁や氷河上池も氷河の融解に支配的な役割を果たす場合があるが、これは高精度DEMを用いた地形解析などの他の間接的な手法を検討することが有効と考えられる。