17:15 〜 18:45
[ACC26-P01] SAR後方散乱画像を使用した氷河平衡線高度の観測
キーワード:氷河、氷河平衡線高度、SAR、ALOS-2
1.はじめに
氷河の平衡線高度(ELA)は,氷河が形成されうる理論的高度を示すため,氷河モニタリングの重要なパラメータであると考えられているが,現地調査によるELAの観測事例は数百程度の氷河での観測に限られている.Winsvold et al.(2018)は,氷河の涵養域ではフィルン内部のアイスレンズ等での散乱により冬期の合成開口レーダ(SAR)後方散乱強度が高いのに対し,消耗域では氷層での鏡面反射により後方散乱強度が低いことを示し,SARデータを使用した氷河平衡線の観測の可能性を指摘した.しかしながら,先行研究においてSARによるELA観測の可能性が示唆された段階であり,長期間の時系列変化や広域観測は実施されていない.
そこで本研究では,JAXAのSAR衛星である①:JERS-1(1992年~1998年),②:ALOS(2006年~2011年),③:ALOS-2(2014年~)の長期アーカイブデータを用いて,全球の氷河のELA時系列変化の観測を目指す.本発表では,ステーク法によって長期間ELAが観測されているアラスカ・タク氷河のSAR後方散乱係数の高度プロファイルを算出し,SARデータを使用したELA観測の可能性の検討結果について報告する.
2.方法
本研究では,タク氷河上に2本の幅200mの帯状ポリゴン(図1:L1,L2)を作成し,帯状ポリゴン内に作成した100mメッシュの①SAR後方散乱係数(HH偏波),②高度(AW3D)を算出し,高度プロファイルを求めた.観測年度は,年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい2008/09年度,2016/17年度(図2),差が大きい2018/19年,2019/20年度であり(図2),翌年の1月~2月のSAR画像を使用して観測した.また,L1,L2における実際のELAは,それぞれLandsat-8画像(Band5:NIR)の反射率から観測した.
3.結果
年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい年度では,プロファイルの角度が大きく変化(水平になる)する高度が実際のELAとほぼ一致していた(図3:L1①).一方,年度ELAと5年移動平均ELAの差が大きい年度では,涵養年(消耗年)では実際のELAより高い(低い)高度で,プロファイルの角度が大きく変化する高度が確認された(図3:L1②,L2②). また,プロファイルの角度が大きく変化する高度以上では,SAR後方散乱係数と高度に正の相関関係が確認された(図3).
4.考察
年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい年度では,プロファイルの角度が大きく変化する高度が実際のELAとほぼ一致していたことから,プロファイルの角度が変化する高度は,複数年の平均ELAを示しており,フィルン域と裸氷域を分けることが考えられる.単年の急激なELA変化を観測できないのは,観測可能なフィルン厚に下限値があるためだと考えられ,涵養年では実際のELAより上に,消耗年では実際のELAより下にプロファイルの角度が変化する高度が観測された.涵養域において,高度と後方散乱係数に正の相関があったことから,フィルン厚と後方散乱強度には正の相関関係があることが考えられる.
氷河の平衡線高度(ELA)は,氷河が形成されうる理論的高度を示すため,氷河モニタリングの重要なパラメータであると考えられているが,現地調査によるELAの観測事例は数百程度の氷河での観測に限られている.Winsvold et al.(2018)は,氷河の涵養域ではフィルン内部のアイスレンズ等での散乱により冬期の合成開口レーダ(SAR)後方散乱強度が高いのに対し,消耗域では氷層での鏡面反射により後方散乱強度が低いことを示し,SARデータを使用した氷河平衡線の観測の可能性を指摘した.しかしながら,先行研究においてSARによるELA観測の可能性が示唆された段階であり,長期間の時系列変化や広域観測は実施されていない.
そこで本研究では,JAXAのSAR衛星である①:JERS-1(1992年~1998年),②:ALOS(2006年~2011年),③:ALOS-2(2014年~)の長期アーカイブデータを用いて,全球の氷河のELA時系列変化の観測を目指す.本発表では,ステーク法によって長期間ELAが観測されているアラスカ・タク氷河のSAR後方散乱係数の高度プロファイルを算出し,SARデータを使用したELA観測の可能性の検討結果について報告する.
2.方法
本研究では,タク氷河上に2本の幅200mの帯状ポリゴン(図1:L1,L2)を作成し,帯状ポリゴン内に作成した100mメッシュの①SAR後方散乱係数(HH偏波),②高度(AW3D)を算出し,高度プロファイルを求めた.観測年度は,年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい2008/09年度,2016/17年度(図2),差が大きい2018/19年,2019/20年度であり(図2),翌年の1月~2月のSAR画像を使用して観測した.また,L1,L2における実際のELAは,それぞれLandsat-8画像(Band5:NIR)の反射率から観測した.
3.結果
年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい年度では,プロファイルの角度が大きく変化(水平になる)する高度が実際のELAとほぼ一致していた(図3:L1①).一方,年度ELAと5年移動平均ELAの差が大きい年度では,涵養年(消耗年)では実際のELAより高い(低い)高度で,プロファイルの角度が大きく変化する高度が確認された(図3:L1②,L2②). また,プロファイルの角度が大きく変化する高度以上では,SAR後方散乱係数と高度に正の相関関係が確認された(図3).
4.考察
年度ELAと5年移動平均ELAの差が小さい年度では,プロファイルの角度が大きく変化する高度が実際のELAとほぼ一致していたことから,プロファイルの角度が変化する高度は,複数年の平均ELAを示しており,フィルン域と裸氷域を分けることが考えられる.単年の急激なELA変化を観測できないのは,観測可能なフィルン厚に下限値があるためだと考えられ,涵養年では実際のELAより上に,消耗年では実際のELAより下にプロファイルの角度が変化する高度が観測された.涵養域において,高度と後方散乱係数に正の相関があったことから,フィルン厚と後方散乱強度には正の相関関係があることが考えられる.