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[ACC27-P06] 南極やまと山脈南部の裸氷帯で掘削されたアイスコアの年代決定
キーワード:南極、やまと山脈、裸氷帯、アイスコア、年代、メタン
裸氷帯は、氷床流動が山脈で遮られて上昇し、表面に比較的古い氷が露出している地域である。そのため、裸氷帯で掘削されたアイスコアは古い年代の環境復元が可能である。これまでに、裸氷帯のアイスコアに関する研究は多く行われている(例えば、南極ではAllan Hills (Spaulding et al., 2013)、Taylor Glacier (Baggenstos et al., 2017)、Larsen BIA (Lee et al., 2022)、グリーンランドではPakitsoq (Petrenko et al., 2006))。
日本でも、第24次日本南極地域観測隊で、南極やまと山脈南部の裸氷帯で全長約100 mのアイスコアが掘削された(以下、南やまとコアと呼ぶ)。過去、氷床流動モデルや含有空気の組成測定など様々な手法で南やまとコアの年代決定が試みられたが(Nakawo et al., 1988; Machida et al., 1996; Moore et al., 2006)、年代を正確に決定することができていなかった。そこで私たちは、南やまとコアから復元されたメタン濃度変動および大気中酸素同位体比変動を、ドームふじコア(Kawamura et al., 2007; Oyabu et al., 2022)とWAIS Divideコア(Rhodes et al., 2015; Seltzer et al., 2017)から得られた変動と比較することで、南やまとコアのガス年代を決定した。本研究では国立極地研究所で、南やまとコアの深度35-65 mについて融解法によって空気を抽出し、メタン濃度と酸素同位体比を測定した。さらに、過去に得られていたデータも組み合わせて解析を行った。なお、6 m以浅ではクラックによる汚染の影響がみられたため、解析からは除外した。
その結果、南やまとコアから復元されたメタン濃度変動にはDansgaard-Oeschger(D-O)イベントに相当するピークが10 m、50 m、70-80 m付近の3区間にみられ、90 m付近に特徴的な小さいピークがみられた。これらの特徴をドームふじコアとWAIS Divideコアと比較した結果、南やまとコアのガス年代は41-49 kyr BPである可能性が高いことが分かった。
また酸素同位体比変動に関しては、コアの掘削から40年経過しており、その間-20℃という比較的高温で保存されていたため、含有空気中の酸素分子の軽い同位体が重い同位体に対して優先的にコアの外へ抜けるgas loss fractionationの影響を大きく受けていることが分かった。しかし、Severinghaus et al. (2009)で提案された補正式を適用することで、メタン濃度変動から決定された年代である41-49 kyr BPのドームふじコアおよびWAIS Divideコアの酸素同位体比変動と概ね一致する結果が得られた。
今後、国立極地研究所の連続融解装置を用いて、高時間分解能のメタン濃度データを取得することで、より高精度な年代を構築できると考えられる。また、41-49 kyr BPはD-O10、11、12に当たる時期であり、メタンの安定同位体比の測定を行うことで、41-49 kyr BPのメタン濃度の変動要因の解明に取り組む。
参考文献:
Baggenstos, D. et al., Climate of the Past, 13, 943–958, 2017.
Kawamura, K. et al., Nature, 448, 912-916, 2007.
Lee, G. et al., The Cryosphere, 16, 2301–2324, 2022.
Machida, T. et al., Proceedings NIPR Symposium Polar Meteorology Glaciology, 10, 55-65, 1996.
Moore, J. C. et al., Journal of Geophysical Research, 111, D16302, 2006
Nakawo, M. et al., Annals of Glaciology, 10, 126-129, 1988.
Oyabu, I. et al., Quaternary Science Reviews, 294, 107754, 2022.
Petrenko, V. V. et al., Quaternary Science Reviews, 25, 865–875, 2006.
Rhodes, R. H. et al., Science, 348(6238), 1016-1019, 2015.
Seltzer, A. M. et al., Climate of the Past, 12, 1323-1338, 2017.
Severinghaus, J. P. et al., Science, 324, 1431-1434, 2009.
Spaulding, N. E. et al., Quaternary Research, 80, 562–574, 2013.
日本でも、第24次日本南極地域観測隊で、南極やまと山脈南部の裸氷帯で全長約100 mのアイスコアが掘削された(以下、南やまとコアと呼ぶ)。過去、氷床流動モデルや含有空気の組成測定など様々な手法で南やまとコアの年代決定が試みられたが(Nakawo et al., 1988; Machida et al., 1996; Moore et al., 2006)、年代を正確に決定することができていなかった。そこで私たちは、南やまとコアから復元されたメタン濃度変動および大気中酸素同位体比変動を、ドームふじコア(Kawamura et al., 2007; Oyabu et al., 2022)とWAIS Divideコア(Rhodes et al., 2015; Seltzer et al., 2017)から得られた変動と比較することで、南やまとコアのガス年代を決定した。本研究では国立極地研究所で、南やまとコアの深度35-65 mについて融解法によって空気を抽出し、メタン濃度と酸素同位体比を測定した。さらに、過去に得られていたデータも組み合わせて解析を行った。なお、6 m以浅ではクラックによる汚染の影響がみられたため、解析からは除外した。
その結果、南やまとコアから復元されたメタン濃度変動にはDansgaard-Oeschger(D-O)イベントに相当するピークが10 m、50 m、70-80 m付近の3区間にみられ、90 m付近に特徴的な小さいピークがみられた。これらの特徴をドームふじコアとWAIS Divideコアと比較した結果、南やまとコアのガス年代は41-49 kyr BPである可能性が高いことが分かった。
また酸素同位体比変動に関しては、コアの掘削から40年経過しており、その間-20℃という比較的高温で保存されていたため、含有空気中の酸素分子の軽い同位体が重い同位体に対して優先的にコアの外へ抜けるgas loss fractionationの影響を大きく受けていることが分かった。しかし、Severinghaus et al. (2009)で提案された補正式を適用することで、メタン濃度変動から決定された年代である41-49 kyr BPのドームふじコアおよびWAIS Divideコアの酸素同位体比変動と概ね一致する結果が得られた。
今後、国立極地研究所の連続融解装置を用いて、高時間分解能のメタン濃度データを取得することで、より高精度な年代を構築できると考えられる。また、41-49 kyr BPはD-O10、11、12に当たる時期であり、メタンの安定同位体比の測定を行うことで、41-49 kyr BPのメタン濃度の変動要因の解明に取り組む。
参考文献:
Baggenstos, D. et al., Climate of the Past, 13, 943–958, 2017.
Kawamura, K. et al., Nature, 448, 912-916, 2007.
Lee, G. et al., The Cryosphere, 16, 2301–2324, 2022.
Machida, T. et al., Proceedings NIPR Symposium Polar Meteorology Glaciology, 10, 55-65, 1996.
Moore, J. C. et al., Journal of Geophysical Research, 111, D16302, 2006
Nakawo, M. et al., Annals of Glaciology, 10, 126-129, 1988.
Oyabu, I. et al., Quaternary Science Reviews, 294, 107754, 2022.
Petrenko, V. V. et al., Quaternary Science Reviews, 25, 865–875, 2006.
Rhodes, R. H. et al., Science, 348(6238), 1016-1019, 2015.
Seltzer, A. M. et al., Climate of the Past, 12, 1323-1338, 2017.
Severinghaus, J. P. et al., Science, 324, 1431-1434, 2009.
Spaulding, N. E. et al., Quaternary Research, 80, 562–574, 2013.