10:45 〜 11:00
[ACG42-06] 海洋上層の熱収支解析に基づく北極の大気と海洋の温暖化メカニズムに関する数値的研究
キーワード:北極温暖化、海洋熱輸送
北極域は他の地域に比べて温暖化が顕著であることが観測とモデルシミュレーションで知られている。この要因として、アルベド・フィードバックなど北極域における気候フィードバックに加えて、大気や海洋による低緯度側からの熱輸送の役割が注目されている。これまで、大気と海洋の温暖化プロセスは別々に議論されることが多かったが、本研究では、海洋熱収支解析、海氷質量収支解析、海面熱フラックス解析などを通じて、北極域における大気と海洋の温暖化メカニズムを統合的に理解することを目指す。
大気海洋結合モデルMIROC6を用いて、大気中CO2濃度を工業化前の値に固定する標準実験(PI)、PIからCO2濃度が毎年複利で1%ずつ漸増する温暖化実験(CO2.1pt)、CO2.1pt実験において北極海の4つのゲートウェイ(ベーリング海峡、デービス海峡、バレンツ海回廊、フラム海峡)における水温と塩分をPI実験に緩和し北極海に流入する海洋熱輸送の増加を抑制する感度実験(CO2.1pt_relax)の3つを行った。CO2.1pt実験では、主に深さ230 mより浅い海洋上層において昇温が顕著に見られた。水温の変動には、季節変化の時間スケールでは、夏は海面熱フラックスの吸収量の増加、冬は大気への熱放出量の増加が主要な役割を果たしていた。しかし、1年を平均すると海面熱フラックスは水温の冷却に寄与しており、経年の時間スケールにおける水温の上昇には移流の寄与が重要で、バレンツ海回廊を通過する海洋熱輸送の増加と整合していた。海氷質量収支においては、底面融解の増加と底面生成の減少が最初に出現しており、圧倒的に大きな夏の海面熱フラックスの増加の重要性が示唆されるが、冬の海氷生成抑制には移流も寄与している可能性がある。CO2.1pt実験とCO2.1pt_relax実験を比較すること(前者-後者)により、海洋熱輸送増加の効果を抽出した。海洋熱輸送の増加は、深さ230 m付近に大きな昇温を生じ、北極海の温暖化を引き起こしたが、北極海上の気温の上昇はほとんど見られなかった。海洋の移流による昇温が主に塩分躍層より下層に制限され、外部強制が同一の条件下では海氷分布に顕著な差が生じず、海洋熱輸送が大気の温暖化へ及ぼす影響が限定的になるためと考えられる。
大気海洋結合モデルMIROC6を用いて、大気中CO2濃度を工業化前の値に固定する標準実験(PI)、PIからCO2濃度が毎年複利で1%ずつ漸増する温暖化実験(CO2.1pt)、CO2.1pt実験において北極海の4つのゲートウェイ(ベーリング海峡、デービス海峡、バレンツ海回廊、フラム海峡)における水温と塩分をPI実験に緩和し北極海に流入する海洋熱輸送の増加を抑制する感度実験(CO2.1pt_relax)の3つを行った。CO2.1pt実験では、主に深さ230 mより浅い海洋上層において昇温が顕著に見られた。水温の変動には、季節変化の時間スケールでは、夏は海面熱フラックスの吸収量の増加、冬は大気への熱放出量の増加が主要な役割を果たしていた。しかし、1年を平均すると海面熱フラックスは水温の冷却に寄与しており、経年の時間スケールにおける水温の上昇には移流の寄与が重要で、バレンツ海回廊を通過する海洋熱輸送の増加と整合していた。海氷質量収支においては、底面融解の増加と底面生成の減少が最初に出現しており、圧倒的に大きな夏の海面熱フラックスの増加の重要性が示唆されるが、冬の海氷生成抑制には移流も寄与している可能性がある。CO2.1pt実験とCO2.1pt_relax実験を比較すること(前者-後者)により、海洋熱輸送増加の効果を抽出した。海洋熱輸送の増加は、深さ230 m付近に大きな昇温を生じ、北極海の温暖化を引き起こしたが、北極海上の気温の上昇はほとんど見られなかった。海洋の移流による昇温が主に塩分躍層より下層に制限され、外部強制が同一の条件下では海氷分布に顕著な差が生じず、海洋熱輸送が大気の温暖化へ及ぼす影響が限定的になるためと考えられる。