日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 北極域の科学

2024年5月30日(木) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、川上 達也(北海道大学)、柳谷 一輝(宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[ACG42-P12] 北極域バローキャニオンの有機物堆積過程におけるアラスカ沿岸流の寄与

*八代 喬介1安藤 卓人1、千代延 俊1 (1.秋田大学国際資源学部)

キーワード:バローキャニオン、マッケンジートラフ、パリノファシス、アモルファス有機物

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において,気候変動の影響を受けやすい北極海の環境の変遷を理解することが重要であるとしており,近年,北極圏では海洋・陸域環境の著しい変化が報告されている。バローキャニオンは,湧昇流の影響で生物生産が高く,アラスカ沿岸流の影響で堆積速度が非常に速いことで知られている。アラスカ沿岸流は,北太平洋からベーリング海峡を通って流入する海流で,大陸棚 (Beaufort Shelf) 辺縁部の水深約100m付近を速い速度で流れている(島田, 2011)。近年注目されているベーリング海峡の北極海への流入は,アラスカ沿岸流を加速させるが,ボーフォート循環の強化,夏の海氷面積の減少も密接に関係している(Gong and Pickart, 2015)。ところが,バローキャニオンでアラスカ沿岸流の強化に伴って,どのように有機物が堆積しているかはわかっていない点が多い。有機溶媒,酸・塩基に不溶な有機物はケロジェンとよばれ,アモルファス有機物(AOM)と形態から分類可能な有機物 (SOM) であるパリノデブリおよびパリノモルフに区分される。これらの顕微鏡観察による組成分析をパリノファシス分析とよぶ。本研究では,研究船「みらい」の2022年度航海において、HAPPI (Holocene Arctic Palaeoclimatology and Palaeoceanography Investigation) プロジェクトの一環で採取された、チュクチ海バローキャニオンBC2 siteで掘削された堆積物コア試料を用いて,パリノファシス分析から人新世の急激な気候変動に伴う有機物の堆積過程の変化を検討した。
パリノファシス分析から,BC2 site試料はAOMが95%以上を占めることがわかった。AOMは自家蛍光特性から,陸上植物の木片などに由来し,自家蛍光を発さないNFA,同じく陸上植物のクチクラ組織などに由来し,自家蛍光を発するFA,水生生物由来で弱い自家蛍光を発するWFAに区分できる (Sawada et al., 2012)。蛍光顕微鏡観察から,表層付近ではNFAが60%以上,FAが約20%,WFAは5%程度を占め,海洋底堆積物であるのにも関わらず陸源由来の有機物が約90%であることがわかった。2 %程度を占めたSOMに関しては自家蛍光を発するクチクラ組織が多く含まれていたことから,FAの大部分は輸送過程で細かくなったクチクラ組織であるといえる。また,1980年から2000年にかけて,FAの割合が約10%増加し,それに伴ってNFAの割合が相対的に減少する結果となった。これは,大陸縁辺部付近に堆積していたFAに富む陸源有機物が,1980年から2000年に海氷減少をもたらした急激な気候変動に伴ったアラスカ沿岸流の強化によって再懸濁し,BC2 siteにより堆積しやすくなったためと考えられる。今後,アラスカ沿岸流のさらなる強化が起きた場合,同堆積メカニズムによって,クチクラ組織等の破片のFAがよりバローキャニオンに堆積すると推測される。このことは,AOMの選択的保存性,すなわち局在性を示唆するため,有機物の堆積と関係がある底生生物群集の変化への理解や石油や石炭の探鉱など地下資源研究への応用が期待できる。