日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:15 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:浅野 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、座長:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、浅野 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)

09:00 〜 09:15

[ACG43-01] 観測ビッグデータに基づく交互砂州の発生機構の特定

★招待講演

*安田 浩保1 (1.新潟大学)

キーワード:交互砂州、土砂輸送、観測ビッグデータ

河床材料が砂礫で構成される河川においては、河床波と呼ばれる周期的な起伏構造が河床に自発的に形成される。河床波は、その幾何学形状の規模に応じて3つに区分され、このうち、もっとも規模が大きなものは砂州と分類される。これまでに砂州の物理的な性質を調べる研究が多数実施されきた。この中で、安定性解析を用いた研究により、川幅水深比が一定値を超えると砂州が発生することが解明された。この解析においては初期の河床面に微小擾乱を与え、この分野では、砂州の発生の要因をこの微小擾乱であると考えてきている。しかし、砂州の発生の要因が微小擾乱であることを実証するデータが提示されたことはなく、現在のところ砂州の発生機構は不明である。また、砂州の発生と発達の過程を細密に測定する手法も未確立である。

 近年の砂州の物理的な性質を調べる研究では数値解析が研究手法として用いられることがほとんどである。流水と土砂輸送のモデル式の数値解析においても微小擾乱が砂州の発生要因と仮定し、安定性解析と同様に初期条件として微小擾乱を与える。このため、微小擾乱以外の砂州の発生要因を考えることが難しい。この問題に対し、著者らは、砂州の発生と発達の過程の模型実験における水面と底面の幾何学的形状を空間的に細密かつ時間的にも高頻度に測定できるStream Tomography: STと称する測定システムを開発し、数値解析と同等以上の観測ビッグデータの取得を可能とした。著者らは、まず、直線水路において初期に硅砂を平坦に敷き詰め、砂州を自発的に発生される模型実験を実施し、STを用いて砂州の発生と発達の過程における水面と底面の幾何学形状を測定し、水面と底面の幾何学的形状についての流下方向と横断方向の波数の分析を行った。その結果、模型実験の開始直後における底面は平坦を維持していることに対し、水面には波数が20ほどの波列が存在することがわかった。次に、前記の直線水路を固定床とし、PTVにより流速の平面的な分布を測定した。その結果、流速の平面的な分布は、前記の移動床とした模型実験の初期の時刻の水面と同等の波数となり、定在波が存在することがわかった。一般に直線かつ平坦な水路において流速と水深は空間的に均一な等流になると言われるが、細密な測定の結果、平坦床においてさえも定在波が存在することがわかった。これらの結果を総合すると、河床波の発生要因の一つは、この定在波の波形が移動床の底面に投影されることであると考えられる。

 上記の研究成果は、水面と底面の幾何学的形状の間には何らかの相関の存在が推測される。このことに着想を得て、まず、砂州の発生と発達の過程おける水面と水深および底面と水深の相関係数を算出した。その結果、砂州の発生段階においては水面が水深と高い相関を有し、砂州の発達段階においては底面が水深と高い相関を有することがわかった。次に、微小振幅波理論における分散関係式から得られる水深波長比に着目し、砂州、砂堆、砂漣の3つのスケールの河床波における水深波長比を調べ、これらの河床波における水面と底面の相関関係を考察した。その結果、模型実験と実河川において砂州が形成される河川や水路の水深波長比は小さく、水面から底面までの流速分布がほぼ一様となる浅水流の仮定が成立する流れであることがわかった。一方で、砂堆と砂漣が形成される水路などの水深波長比は大きく、そこでの流れは鉛直方向に一定規模の分布を持ち、浅水流を仮定できる流れとはならないことがわかった。つまり、砂州が卓越する河川においては河床の砂州の形状は水面に影響を及ぼし、またそこでの流れは鉛直方向にほぼ一様な浅水流を仮定できる流れとなることが初めて解明した。