日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 陸域から沿岸域における水・土砂動態

2024年5月28日(火) 09:00 〜 10:15 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:浅野 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)、木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、山崎 大(東京大学生産技術研究所)、有働 恵子(東北大学大学院工学研究科)、座長:木田 新一郎(九州大学・応用力学研究所)、浅野 友子(東京大学大学院農学生命科学研究科)

09:15 〜 09:30

[ACG43-02] 津波および地震による海岸での土砂移動と地形発達:地質学的観点から

★招待講演

*菅原 大助1、Erick Velasco-Reyes2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.東北大学大学院理学研究科地学専攻)

キーワード:東日本大震災、数値シミュレーション、三陸海岸、仙台湾

この講演では、津波と地震が沿岸域の土砂移動や地形発達にどのような影響を及ぼすのかについて、既往研究のレビューや数値シミュレーションに基づいて議論する。
津波は、沿岸域から陸域あるいは陸域から沿岸域へと、極めて短時間のうちに大量の土砂を移動させる。この現象への理解は、過去約60年間の調査研究を通じて深められてきた。2011年の東北沖津波による土砂の侵食・堆積を検討した既往研究に基づけば、津波土砂移動は巨視的には陸域から沿岸域、さらには外洋域への物質移動として理解される。実際に、三陸海岸や仙台湾南部では、海浜の侵食で生じた土砂の一部が陸域に、残りは沿岸域に移動したことが明らかにされている。一方、沿岸域から陸域への土砂移動は地形条件、堆積物の組成、波の特性の違いによる影響を大きく受けるため、一般的な説明を与えることは難しい。よく知られている様式は、津波の越流で浜堤が侵食され、砂が内陸に運ばれる状況である。地域によっては、このようにして形成される津波堆積物が海岸平野の地層の多くを占める場合もあり、地形発達と環境変化に対する寄与は大きいのかもしれない。津波により海浜に形成される侵食地形は、その後の沿岸漂砂などによって回復していくが、痕跡は地形あるいは地層中に長く残される。地質学的手法による津波侵食地形の探索と評価は、地震・津波の履歴解明における新しい研究課題となっている。
地震によって山地で斜面崩壊が多発すると、河床面の上昇や沿岸域への土砂供給量の増大を経て、浜堤の成長が促進されると考えられる。ニュージーランドや日本での検討によれば、古い浜堤列の形成年代が歴史・地質記録から知られている地震の年代と整合するとの指摘がある。地震をきっかけとする沿岸域への土砂供給量の増大と浜堤列の形成はseismic drivingモデルと名付けられ、地震履歴解明の枠組みの一つとして議論されている。全体を定量的に評価した研究はまだないが、既存の解析手法を組み合わせることで実現可能かもしれない。陸域と沿岸域をまたぐ土砂移動の広域・長期にわたる予測は、地震履歴解明だけでなく、沿岸域の土砂動態に関する理解を深める一助になると考えられる。