17:15 〜 18:45
[AOS11-P01] シアノバクテリアを用いた酸素生成バイオームと、亜硝酸菌と硝酸菌を用いたバイオームの維持・循環モデルの検討
キーワード:宇宙居住、シアノバクテリア、亜硝酸菌、硝酸菌、酸素生成バイオーム、バイオリアクター
現在のところ、人類が安定して居住できる環境のある惑星は地球のみであるが、地球以外の場所での人類の生存・居住の可能性を研究する試みも進んでいる。国際宇宙ステーション(ISS)は、地上から約400km上空に建設された巨大な有人実験施設である。宇宙飛行士による長期滞在が行われているが、ISSにおいても地上と同様で水と空気が重要であり、ISSでは定期的な水と酸素の補給に加え、生命維持システムによって尿や汗からの水の再利用や二酸化炭素の除去、水の電気分解による酸素生成を通して環境を維持している。また、月への有人探査や長期滞在、さらには火星を見据えたArtemis 計画が実行中である。月の南極域に水が固体として存在している可能性があり、月の水資源を利用した飲料水の生成や呼吸のための酸素の生成が検討されている。
このように宇宙での人類の生存・居住を想定した研究が進んでいるが、山敷らは21世紀後半に人類が月・火星への移住を現実のものとするという未来を想定し、宇宙移住に必要なコアコンセプトとして、コアバイオーム複合体を要素抽出した地球生態系システムと定義した(1)。その中で、移住に最低限必要な選定バイオーム、それに必要な技術をコアテクノロジー、社会システムをコアソサイエティとして定義し、3つのコアコンセプトの統合から他の天体への宇宙移住を確立することを目標とした概念が構築された。コアテクノロジーの一つとして、宇宙空間で人類を生存させるために生命維持装置の稼働が必須である。この装置では、酸素を含む空気、二酸化炭素の除去、水のリサイクル、食料供給が求められる。現在のISSでは、機器による電気化学的反応を利用して酸素の生成、二酸化炭素の除去、水のリサイクルを実施しているが、地球の生態系においては、細菌や植物のバイオームにより自然に行われている。人類が月・火星への移住を現実のものとするためには、機器による電気化学的反応に依存するのではなく、選定バイオームとして選択される細菌や植物により人類の生命維持がなされることが重要だと考えられる。その一方で、人類と同様に生物からなるバイオームも栄養源を取り込み、維持される必要があるため、選定されたバイオームの維持も重要な要素であり、課題である。
そこで本研究では、人類の生命維持に重要である酸素の生成と二酸化炭素の除去を完全閉鎖空間内において実現できる生物種の選定、および実現の可能性を検討することを目的とした。生物種としては、光合成細菌であり酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアを選択する。先行研究では、培養に必要な栄養分の補給のために定期的に培養液の補充が必要であり、完全閉鎖空間での維持は実現できていない。栄養素として、硝酸塩やリン酸が重要と考えられるが、人を含めた閉鎖空間を想定した場合、尿中の成分を利用できると考えている。尿中の尿素を硝酸塩に変換する生物種も同時に培養を行うことで、栄養素を枯渇せず培養を維持できる酸素生成リアクターの構築が可能と考えている。生物種としては、ウレアーゼ活性を有する亜硝酸菌を選択する。硝酸菌と共培養することで尿を原料として硝酸塩を得る。シアノバクテリアを用いたバイオームによる酸素の生成と二酸化炭素の除去、ウレアーゼ活性を有する亜硝酸菌と硝酸菌による尿を原料とした栄養素の供給を両立することで、生態系による完全閉鎖空間での生命維持を目指す。本発表では、検討した生物種および物質循環のモデルを発表する。
[1] 山敷 庸亮 et al. 有人宇宙学 宇宙移住のための3つのコアコンセプト、京都大学学術出版会、2023年7月
このように宇宙での人類の生存・居住を想定した研究が進んでいるが、山敷らは21世紀後半に人類が月・火星への移住を現実のものとするという未来を想定し、宇宙移住に必要なコアコンセプトとして、コアバイオーム複合体を要素抽出した地球生態系システムと定義した(1)。その中で、移住に最低限必要な選定バイオーム、それに必要な技術をコアテクノロジー、社会システムをコアソサイエティとして定義し、3つのコアコンセプトの統合から他の天体への宇宙移住を確立することを目標とした概念が構築された。コアテクノロジーの一つとして、宇宙空間で人類を生存させるために生命維持装置の稼働が必須である。この装置では、酸素を含む空気、二酸化炭素の除去、水のリサイクル、食料供給が求められる。現在のISSでは、機器による電気化学的反応を利用して酸素の生成、二酸化炭素の除去、水のリサイクルを実施しているが、地球の生態系においては、細菌や植物のバイオームにより自然に行われている。人類が月・火星への移住を現実のものとするためには、機器による電気化学的反応に依存するのではなく、選定バイオームとして選択される細菌や植物により人類の生命維持がなされることが重要だと考えられる。その一方で、人類と同様に生物からなるバイオームも栄養源を取り込み、維持される必要があるため、選定されたバイオームの維持も重要な要素であり、課題である。
そこで本研究では、人類の生命維持に重要である酸素の生成と二酸化炭素の除去を完全閉鎖空間内において実現できる生物種の選定、および実現の可能性を検討することを目的とした。生物種としては、光合成細菌であり酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアを選択する。先行研究では、培養に必要な栄養分の補給のために定期的に培養液の補充が必要であり、完全閉鎖空間での維持は実現できていない。栄養素として、硝酸塩やリン酸が重要と考えられるが、人を含めた閉鎖空間を想定した場合、尿中の成分を利用できると考えている。尿中の尿素を硝酸塩に変換する生物種も同時に培養を行うことで、栄養素を枯渇せず培養を維持できる酸素生成リアクターの構築が可能と考えている。生物種としては、ウレアーゼ活性を有する亜硝酸菌を選択する。硝酸菌と共培養することで尿を原料として硝酸塩を得る。シアノバクテリアを用いたバイオームによる酸素の生成と二酸化炭素の除去、ウレアーゼ活性を有する亜硝酸菌と硝酸菌による尿を原料とした栄養素の供給を両立することで、生態系による完全閉鎖空間での生命維持を目指す。本発表では、検討した生物種および物質循環のモデルを発表する。
[1] 山敷 庸亮 et al. 有人宇宙学 宇宙移住のための3つのコアコンセプト、京都大学学術出版会、2023年7月