日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS11] 陸域海洋相互作用ー惑星スケールの物質輸送

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:山敷 庸亮(京都大学大学院総合生存学館)、佐々木 貴教(京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室)、Behera Swadhin(Climate Variation Predictability and Applicability Research Group, Application Laboratory, JAMSTEC, 3173-25 Showa-machi, Yokohama 236-0001)、升本 順夫(東京大学大学院理学系研究科)

17:15 〜 18:45

[AOS11-P03] 初期の火星から考える海洋を有する惑星の気候に関する研究

*可児 凌雅1山敷 庸亮1 (1.京都大学)

キーワード:初期の火星、気候、海洋

はじめに
 初期火星の水循環を理解することは、惑星の気候メカニズムを理解する上で重要である。というのも、火星の地形には浸食谷や扇状地など、水が流れた痕跡のある地形が多く、25億年以上前の火星に液体の水が存在していたことを示唆しているからである。当時の火星には液体の水が存在し、地表を流れていた可能性が高いと考えられている。しかし、火星は地球よりも太陽から遠く、現在の火星の温度は融点よりもかなり低いため、水が液体の状態で存在するには、現在の火星よりもかなり高い温度でなければならなかった。さらに、当時の太陽は現在よりも光度が小さく、火星に入射するエネルギーも低かったため、高温を維持することが難しい環境となっていた。そのためには、温室効果ガスが豊富な環境が必要となるが、温暖で湿潤な環境が長期間にわたって維持されていたのか、それとも寒冷な気候の中で噴火や天体衝突など、短期的に温暖な環境を作り出す出来事が起こり、一時的に氷が溶けて水が流れたのかは不明である。火星のかつての水資源は十分に豊富であった可能性が高く、もし水が流れたとすれば、標高の低い場所に海や湖ができたはずだが、海の状態についてはまだ不明な点が多く、議論の対象となっている。もし海が長い期間存在していれば、生命が誕生し成長する可能性のある場所として機能し、宇宙生物学において重要な役割を果たしたかもしれない。しかし、地球以外の惑星における海洋と大気の相互作用に関する研究は不足しており、その安定性に影響を与える要因も詳しくは分かっていない。そこで本研究では、初期火星の気候をシミュレーションで再現し、水の循環と温度を調査することで、海洋が長期間液体であり続けた条件を調べた。

方法論
シミュレーションには3次元地球気候モデル(3D-GCM)を用いた。計算にはROCKE-3D(Resolving Orbital and Climate Keys of Earth and Extraterrestrial Environments with Dynamics)を使用した。火星特有の放射伝達スキームを再現するために、SOCRATES (Suite Of Community RAdiative Transfer codes based on Edwards and Slingo)スキームを用いた。海については、地形データから海岸線と想定される線の標高を基準とし、その標高より下は水で満たされていると仮定した。海洋が液体の水で満たされた状態からスタートし、熱収支が安定した時点で平衡に達したと考え、その後10年間の気候を観測した。海洋と大気の相互作用をより正確に再現するために、海洋大気結合モデルを用いた。
太陽輝度、自転軸、大気圧、大気組成には不確定要素が多いため、約30億年前の環境として可能な範囲でいくつかの値を採用し、それらをパラメータとして変化させながら、それぞれの値における気候を調べた。

結果と考察
 以上のシミュレーションにより、火星初期の様々な環境における気候を推測することができた。海洋と大気の結合を完全に考慮したこの検証は、火星がこれまで考えられていたよりも単純な条件下で、その海洋を液体に保つことができたことを示している。また、火星の地形的特徴により合致した環境を見つけることができ、当時の環境に近い気候を推測することができた。