日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS14] 海洋物理学一般

2024年5月30日(木) 13:45 〜 15:00 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、座長:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

14:45 〜 15:00

[AOS14-05] 2003年1月に北海道オホーツク海沿岸で観測された流氷渦のPIV解析

*青嵜 勇星1板野 稔久1 (1.防衛大学校)

キーワード:流氷渦、オホーツク海、宗谷暖流、東樺太海流

北海道オホーツク海沿岸部は,宗谷暖流及び東樺太海流双方に影響を受け海洋渦が発生するなど(Wakatsuchi & Ohshima, 1990)海流特性が複雑である.また,北半球において最も低緯度に位置する海氷域であり,冬季には海氷を伴う海洋渦が多く発生する.同海域では,2022年4月23日の知床遊覧船沈没事故をはじめ海難事故が多く生起しており,海流予測の難しさから行方不明者捜索が難航した事例も少なくない.しかし,この複雑さに反してデータ解析の事例は少なく,海洋事故未然防止の観点からも,同海域の更なる詳細な調査が必要である.
 本研究では、知床付近に発生する流氷渦に主眼をあて,2003年1月27日に海上自衛隊の哨戒機により撮影された流氷渦の解析を行った.使用したデータは,航空写真,静止気象衛星GMS-5可視画像,北海道大学の流氷レーダーにより測定された海氷分布画像及び気象庁提供のオホーツク海沿岸区域の気象観測データであり,当該事例当日は,気象状況が良好であり,航空写真に加え衛星画像とレーダー画像の双方において海氷分布が確認できた好例である.
 解析に当たって,前処理としてレーダー画像と衛星可視画像の重複範囲における流氷エコーの有無と可視チャンネルの階調を比較し,海氷の有無を判定する閾値を決定した.その後,閾値を適用した衛星画像に粒子画像流速測定法(Flowtech Research社 Ftr PIV3)を用いることで流れ場の解析を行った.なお,解析に先立って,GMS-5のようなスピン安定方式の静止軌道衛星で顕著にみられた画像間のブレを動体補正ソフト(Flowtech Research社 Motion Compensator)を使用して取り除いた.
 解析結果によると,流氷渦発生時(27日11-13時)では厚氷域を伴う東樺太海流由来の北寄りの流れが北海道沿岸部にぶつかり東西に分岐しており,西に分岐した流れが紋別以西で沿岸に沿って宗谷暖流に逆流するように北西進した一方,東に分岐した流れは知床半島に沿って北東進している.この流れは知床岬沖で離岸後,東西に分岐しており,西に転向した方が低気圧性の曲率を持ち,対象としている流氷渦の循環を形成している.この渦の中心は大陸棚から外れ,オホーツク海盆に至る水深1000-2000mの斜面上に位置しており,その崩壊は,風の影響により東樺太海流由来の低気圧性の循環が消滅したことが大きいと考えられる.一方,稚内方面に着目すると,薄氷域を伴う宗谷暖流由来の南東流は,東樺太海流の影響により紋別付近で不明瞭化しているため,当該事例の流氷渦はWakatsuchi & Ohshima(1990)が解析したような暖寒流のシア上で形成されたものとは形成要因が大きく異なることが示唆される.この他,流氷渦の北北西約80kmでは,東樺太海流由来の東向きの分流により,海氷を伴う高気圧性の循環も確認できる.