日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS14] 海洋物理学一般

2024年5月30日(木) 15:30 〜 16:45 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、座長:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

16:00 〜 16:15

[AOS14-08] 高精度移流スキームの単精度化によるOGCMの高速化について

*中野 英之1浦川 昇吾1 (1.気象研究所)

キーワード:海洋モデル、単精度計算、移流スキーム

現在のスーパーコンピュータシステムの計算において倍精度計算の代わりに単精度計算を使うことはベクトル演算や通信においてレジストリに詰められる数が2倍となるため、最大2倍程度の速度上昇が見込まれる。(GPUの利用でも同様)。しかし、高々2倍なので、スーパーコンピューターの計算能力が年々指数関数的に伸びている時期には、単精度化による桁落ち等の副作用の対処に苦労してまでも取り組むほどの優先度はなかったが、近年のスーパーコンピューターの大幅な速度向上が見込まれない中では、2倍という高速化が魅力的となっている。
気象研究所共用海洋モデル(MRI.COM)の一部単精度化による高速化の手始めとしてSecond-Order Moment (SOM)スキームと呼ばれる、トレーサーの格子内分布を0-2次の多項式近似し移流させる、高精度であるものの計算負荷が重いトレーサー移流スキームの単精度化を試みた。単純にSOMスキームの変数を全て単精度化すると移流スキーム及び全体の計算コストはそれぞれ、55%、86%と低減したが、全球モデルを長時間(3百年)積分すると深層の温度に数度程度の無視できない昇温が現れた。理想実験等からこの昇温は連続の式の評価の誤差が成長したものであることがわかった。この改善のためにトレーサー移流スキームのうち、連続の式の評価にも使われる0次の項だけを倍精度で保持して計算するように変更すると、誤差が著しく減少し300年積分で0.01 度以下となり、なおかつ移流スキームおよび全体の計算コストも57%、87%と全て単精度化の場合とあまり変わらない値となった。また、この工夫した単精度移流スキームを渦解像モデルでのテストも行い、数十年程度の気候値や誤差の発展等において、全て倍精度と系統的な違いは見られなかった。
これらの事から、このSOMの工夫した単精度化は常用できる有用なオプションであると思われる。