日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS15] 海洋化学・生物学

2024年5月26日(日) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:安中 さやか(東北大学)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)

17:15 〜 18:45

[AOS15-P01] 北太平洋の亜鉛循環プロセスと海洋循環場の関わり

*杉野 公則1岡 顕1 (1.東京大学 大気海洋研究所)

キーワード:GEOTRACES、亜鉛、珪素、微量元素、海洋物質循環モデル、海洋大循環モデル

亜鉛は生物活動に重要な役割を果たすことから、生物地球化学的に重要な元素と考えられている。全球の海洋において、亜鉛は珪素とほぼ一定の濃度比を持つカップリング関係にあるが、北太平洋ではこのカップリング関係が崩れていることが観測されている。我々の以前の研究では、モデル実験によって大陸棚からの亜鉛供給で説明できる可能性が示唆された。しかし、これは単一の循環場に基づく示唆であり、太平洋循環の不確実性を考慮すると、この解釈は循環場に依存する可能性がある。本研究では、従来の循環場に加えて、より現実的にトレーサーを再現できる循環場を用いて、亜鉛と珪素のデカップリングを制御する北太平洋循環の役割を明らかにすることを試みた。
異なる循環場を用いた実験から、従来と同じ結果である大陸棚供給に加えて、亜鉛の再生過程も亜鉛とケイ素のデカップリングに影響を与える可能性が示唆された。したがって、その解釈は循環場に依存することがわかった。北太平洋における水塊年齢が高く、輸出生産量が多い循環場では再生亜鉛を過大評価し、水塊年齢が若く、輸出生産量が少ない循環場では再生亜鉛を過小評価していた。
現実の北太平洋においては、大陸棚供給と亜鉛の再生のプロセスがどちらがどの程度寄与して亜鉛と珪素のデカップリングを引き起こすかについて、モデル結果の再生リンに対する再生亜鉛の比率と観測データの溶存酸素濃度から推定した再生リン濃度を使用して、観測データに基づいた亜鉛の成分分解推定を行った。
この推定からは、デカップリングが顕著な1000m以浅の亜鉛濃度のうち70%以上が亜鉛の再生に起因するものであり、デカップリングを引き起こす主な要因は亜鉛の再生であると見積もられた。
本研究で用いた数値シミュレーションは、観測データの再生リンと比べると、北太平洋での有機物の再生を一方の循環場では過小評価、もう一方では過大評価しており、適切な再生亜鉛濃度分布を再現することができなかった。
適切な再生亜鉛濃度分布をシミュレーションするためには、北太平洋におけるより現実的な循環場の再現が必要である。
乱流鉛直混合プロセスなど、近年明らかにされつつある北太平洋の中深層循環を支配するプロセスについてより定量的に理解をするための研究を進めるとともに、その知見をモデリングに取り入れていくことが望まれる。
また、本研究のモデル実験では北太平洋やその他の海域での深層の滞留時間と輸出生産の再現性が不十分であったことに起因して、北太平洋における再生亜鉛濃度の再現性が循環場によって大きく異なるという結果を得た。
今後の研究では、さらに、北太平洋の深層循環や輸出生産の再現性についての議論を行い、より現実的な最適な循環場を用いて議論を行う必要があると考えられる。