日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2024年5月27日(月) 15:30 〜 16:45 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)、座長:増永 英治(Ibaraki University)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)

16:00 〜 16:15

[AOS16-08] 絶対塩分アノマリーから見た日本周辺表層海水の河川水の影響

*内田 裕1、脇田 昌英1、大江 光穂2 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.気象庁)

キーワード:絶対塩分アノマリー、河川水

日本周辺の表層海水に対する河川水の影響を把握することを目的として、船舶観測で得られた絶対塩分アノマリー(dSA)の空間分布を調べた。dSAは、絶対塩分と電気伝導度の測定に基づく標準組成塩分(実用塩分をSI単位に変換したもの)の差として定義される。絶対塩分は海水密度の直接測定から求めることができる。一方、海水組成分析からdSAを推定することもでき、外洋域では主にアルカリ度(TA)・全炭酸・ケイ酸塩・硝酸塩・溶存有機炭素(DOC)の関数としてdSA推定式が提案されている。本研究では、船舶CTD採水観測で得られた海水組成データを基に、日本周辺の表層海水のdSAの空間分布を求めた。2010年から2022年に気象庁が実施した太平洋・東シナ海・日本海のCTD採水データ、オホーツク海・ベーリング海・太平洋のWOCEおよびその再観測によるCTD採水データ、および、2012年から2019年にうしお丸で実施した津軽海峡のCTD採水データ等を使用した(合計1935測点)。dSAに対するDOCの影響は比較的小さくDOCデータは非常に少ないので、ここではDOCの影響は無視した。採水分析値から推定したdSAと実用塩分の関係から河川水の影響(主にTAの影響)を調べ、以下の特徴を得た。亜熱帯域表層の実用塩分は水分の蒸発や降水の影響で大きく変化するが、dSAはほぼゼロである。一方、東シナ海では長江の影響と見られる低塩分・高dSAな海水が見られた。そのような特徴を持つ海水は日本海に流入した後、日本海固有水と混合・変質し、日本海中央部に広く分布している。また、オホーツク海ではアムール川の影響と見られる低塩分・高dSAな海水が見られる。そのような特徴を持つ海水は太平洋に直接流出、あるいは、千島海峡を通過する際に深層の高dSAの海水と混合・変質し、亜寒帯域に分布している。津軽海峡では日本海固有水で変質したものと、より低塩分・高dSAの海水が見られるが、長江の影響とアムール川の影響の特徴が似ている(実用塩分―dSA関係が交わる)部分に分布しており、dSAだけではどちらの影響か判断は難しい。CTD採水観測は時空間的に離散的なデータであるが、船舶による表層海水連続観測による水温・実用塩分測定に加え、屈折率測定に基づく密度を測定することで、空間的に連続したdSA分布の評価も行っている。