日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[AOS16-P01] 沿岸域における植物プランクトンの色素組成変化及び銅毒性との関連性

*石﨑 泉1黄 国宏2高村 晃拓1近藤 能子3小畑 元4、眞塩 麻彩実2、長谷川 浩2 (1.金沢大院自然、2.金沢大理工、3.長崎大水産、4.東京大大気海洋研究所)

キーワード:有明海、クロロフィル、シアノバクテリア、毒性評価

[目的]植物プランクトンは水中の生態系における一次生産者であり、光合成によって生態系に有機物を供給する重要な役割を担っている。一次生産量は植物プランクトンの種類にも依存する。海水中の銅は高濃度になると植物プランクトンに対して毒性を示す可能性がある。銅が植物プランクトンに取り込まれると、細胞内での活性酸素の生成が増加する。この銅ストレスの応答として、植物プランクトン体内で色素が生産されると考えられる。そこで、本研究では銅暴露下において植物プランクトンの光合成色素組成の変化を研究する。また、有明海における植物プランクトン中の色素組成を明らかにし、銅などの有害物質のストレスに対する天然植物プランクトン群集の応答を調査する。
[実験]室内培養実験では、海洋植物プランクトンの1種である藍藻(Synechococcus sp.)を用いた。維持培養には、f/2培地を用いた。海洋植物プランクトンの培養は、20℃、湿度50%、光量180 mmol E m-2 s-1、明暗サイクル12h-12hの条件で、インキュベーターを用いて行った。遊離銅イオン(Cu2+)の培地中の濃度が0, 10-12, 10-11 Mとなるように銅を添加した。
有明海の試料は、2023年11月に長崎大学の練習船『鶴洋丸』で7地点において採取した。試料中の植物プランクトンは0.7 μm孔径の濾紙(GF/Fフィルター)を用いて吸引濾過により回収した。色素は有機溶媒により抽出した後、クロロフィル a (Chl a)、クロロフィリド a (Chlde a)、フコキサンチン、ゼアキサンチンを高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で分離し、蛍光または吸光度で定量した。
[結果・考察]室内培養実験ではCu2+濃度が0, 10-12, 10-11 MであるときChl aの濃度はそれぞれ0.43 μg/ L、0.024 μg/ L、0.0042 μg/ Lとなった。一方、Chlde aの濃度はそれぞれ0.15 μg/ L、0.28 μg/ L、0.32 μg/ Lとなった。Chl aに対する各色素の比率を算出した結果、フコキサンチン及びゼアキサンチンのChl aに対する比率は大きく変動しなかった。一方、Chlde aのChl aに対する比率はそれぞれ0.35、12、77となり銅の添加量の増加に伴い、6-35倍程度増加した。植物プランクトンが銅ストレスを受けたことによる応答として色素の生産に影響が生じたと考えられる。有明海では、試料を採取した7地点のうちA9及びA11の2地点においてChlde aのChl aに対する比率がそれぞれ3.2、3.9となりChlde aのChl aに対する比率が1.0を超過しなかったほかの5地点と比べ顕著に高かった そのため、A9、A11において生息する植物プランクトンが環境ストレスを受けている可能性がある。