日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS16] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:増永 英治(Ibaraki University)、日髙 弥子(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、高橋 杏(東京大学 大気海洋研究所)、中島 壽視(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:45

[AOS16-P05] GUIを用いた流動生態系シミュレーション実行ツールEcoPARIの開発

*井上 徹教1、松崎 義孝1、久保田 雅也1、松本 大輝1、佐藤 朋之1 (1.港湾空港技術研究所)

キーワード:GUI、数値モデル、流動、水圏生態系、閉鎖性水域

閉鎖性水域での諸現象の理解において、数値シミュレーションモデルの利用は有用である。しかし、一般に、モデル利用にあたっては相当の習熟が必要であり、万人が容易に利用できるものではない。本研究では、モデル初学者でも利用可能なようにプリ・ポスト処理にGUIを利用した数値シミュレーション実行ツールEcological hydrodynamic simulation system of the Port and Airport Research Institute (EcoPARI)を開発した。
まず、計算準備段階として、4つのツールがある。EcoPARI-Preは、予め準備された各種データから、個別のシミュレーション実行に必要な部分を抽出し、モデル入力としてのフォーマットに従った境界条件ファイルを作成するツールである。本ツールでは、既存のデータをもとに、オペレーターの必要に応じて変更を加えることもできる。EcoPARI-Boundary conditionは、AMeDASや気象庁GPVデータ等から、大気境界、河川境界、開境界の境界条件ファイルを作成するツールである。EcoPARI-Parserは既存の初期条件ファイルを編集するためのツールで、ユーザーの任意の初期条件を作成することが可能である。EcoPARI-Remesherは、合理的なメッシュ分割を目的としたツールであり、隣り合うメッシュにおいて着目する諸量が同程度の場合には、それらのメッシュを結合する機能を持つツールである。
次に、数値シミュレーション実行モデルとして、EcoPARI-Simulatorがある。これは、主に閉鎖性水域での流動生態系シミュレーションを目的としたモデルで、流動、浮遊生態系、底生生態系の3モデルより構成される。流動については、非静水圧モデルを選択でき、粒子追跡計算も可能、ネスティングとしてBCMを採用している。生態系モデルでは腐食連鎖のモデル化、二枚貝や魚類のモデル化など、特徴的な機能を備えている。
計算後処理段階として、3つのツールがある。EcoPARI-Post Webは、出力結果を読み取り、Webブラウザを介して数値シミュレーションの結果を可視化するツールである。ユーザーの選択により、2次元または3次元での図示が可能で、任意箇所の数値をテキストで抽出し、ダウンロードすることが可能である。EcoPARI-Post Stand-aloneは、ユーザーのパソコンにある出力結果を2次元で表示するツールである。任意の断面における画像やアニメーションの作成、任意箇所の数値をテキストで抽出、などの機能を持つ。EcoPARI-Reactionは、計算結果のスカラー量(ストック)だけでなく、生態系モデルにおける反応速度(フロー)を計算し、表示するツールである。
また、EcoPARI-Boundary conditionとEcoPARI-Simulatorの組み合わせにより、11日間の短期予測計算をルーチンで行うシステムも構築しており、この結果をスマートフォンに表示させるEcoPARI-Post Mobileというツールも作成している。
また、サブシステムとして、精度良い計算の初期条件を作成するためのデータ同化ツール(EcoPARI-Data Assimilation)がある。これは、パラメーターチューニングにおいても使用可能である。もう一つのパラメーターチューニングツールとして、観測値と計算結果との比較を元に、遺伝的アルゴリズムを用いてパラメータチューニングを行うEcoPARI-Genetic Algorithmも作成している。
以上、閉鎖性水域での流動生態系シミュレーションを容易に、かつ精度良く実行するための一連のシステムを構築した。現段階で本システムの運用実績は乏しいが、今後多くのユーザーに利用され、改良されていくことを目指している。