日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG05] Frontier in diversity and ecology of protists and microfossils

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、氏家 由利香(高知大学)、仲村 康秀(島根大学エスチュアリー研究センター)、Baumgartner Oliver Baumgartner(University of Lausanne)


17:15 〜 18:45

[BCG05-P03] ポリスチレン人工ナノ粒子による底生有孔虫Ammonia venetaへの影響

*稲垣 優花1、垣本 聖尚1氏家 由利香2 (1.高知大学理工学部生物科学科、2.高知大学・海洋コア国際研究所)

キーワード:ポリスチレンナノ粒子、海洋汚染、底生有孔虫、毒性

プラスチックの生産量は過去70年間で急速に増加している。しかし、同時に廃棄量も増加しており、一部は不法投棄などといった不適切な手段で環境中に排出されている。これらのプラスチックは細かいサイズに分解され、水生生物に対して悪影響を及ぼすことが懸念されている。ポリスチレン(PS)は一般的によく利用されているプラスチックの一つで、比重が海水よりも重いため海底に沈殿する形で存在し、特に底生生物へ大きな影響を与えている。底生有孔虫は、沿岸域を含む広域の海底に分布し、糸状に伸ばした原形質でできた仮足で周囲の物質を集め、また、生活環の中でチャンバーと呼ばれる小部屋を連続的に付加することで細胞に合わせて殻を成長する特性を持つため、環境モニタリングで用いられることがある。実際、マイクロ・ナノサイズのPS粒子を用いた曝露研究では、底生有孔虫がPS粒子を細胞内に取り込むことや、ストレス応答を示すことがわかっている(Ciacci et al., 2019; Grefstad, 2019)。しかし、PS粒子による長期的な影響や、生存限界濃度などについては不明である。そこで本研究では、3種類の人工ポリスチレンナノ粒子(PS NPs)を添加した環境下で底生有孔虫を長期培養し、異なる添加濃度における有孔虫の成長率・死亡率や奇形を調べ、PS NPsがもたらす毒性について検証することを目的とした。
本研究では、底生有孔虫Ammonia venetaのクローン培養株を用い、非修飾PS NPs・アミン基修飾ポリスチレン(PS-NH₂) NPs・カルボキシル基修飾ポリスチレン(PS-COOH) NPsをそれぞれ添加した人工海水培地で5週間の培養実験を行った。各培地は1 ppmと100 ppmに調製され、コントロールとしてPS NPsを添加していない人工海水培地が用いられた。培養期間中、1週間ごとに各個体を倒立顕微鏡で撮影し、増加したチャンバー数を成長率として評価した。さらに、実験終了後に殻を回収し、殻表面のSEM観察とEDS分析を行った。低濃度(1ppm)ではいずれのPS NPs添加環境でもコントロールと同様にA. venetaの成長が認められたが、高濃度(100ppm)ではPS-NH₂・PS-COOH NPs添加環境の個体の成長率が、コントロールや非修飾PS NPs添加環境と比較して有意に低く、実験期間中に全個体の死亡が確認された。また、1 ppmの各PS NPsや100 ppmの非修飾PS NPs添加環境では、コントロールと同様にクローン繁殖が認められた。使用したPS NPsはサイズに大きな差がないものの、PS-NH₂・PS-COOH NPsは各々正と負に帯電している。さらに、両修飾PS NPsには蛍光が塗布されており、EDS分析から蛍光塗料に微量の金属が含まれていることが示された。ナノ粒子の表面帯電は、細胞膜に付着しやすいなどナノ粒子の毒性を高めることが報告されており、また金属元素も毒性をもつことがあるため、高濃度のPS-NH₂・PS-COOH NPs曝露下で有孔虫の成長率が著しく低下したと考えられる。一方、添加濃度に関係なく、PS NPs添加環境で培養した個体には、奇形の発生や殻の損傷が認められたことから、PS NPs自体が、有孔虫の殻形成に影響を及ぼしている可能性が示唆された。今後はPS NPs添加濃度の設定をより詳細に行い、ナノ粒子の帯電や蛍光の有無による毒性の差の検証を行う必要がある。

Ciacci, C., et al. (2019). Nanoparticle-biological interactions in a marine benthic foraminifer. Sci. Rep. 9(1):19441.
Grefstad, A.I. (2019) Marine benthic foraminifera and microplastics (accumulation and effects following short-and long-term exposure). Master thesis. University of Oslo.