日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:30 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:渡辺 泰士(気象研究所/東京大学)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)


10:00 〜 10:15

[BCG06-05] 34億年前の西オーストラリア, ストレリー・プール層に見られる球状黄鉄鉱に対する硫黄同位体局所分析

★招待講演

*笹木 晃平1石田 章純2高畑 直人1掛川 武2杉谷 健一郎3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.東北大学大学院理学研究科地学専攻、3.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻 )

キーワード:太古代、硫黄同位体、スティルリー・プール層、二次イオン質量分析計

初期生命の活動とその当時の環境はまだ不明である。 西オーストラリア州ピルバラ地塊のスティルリー・プール層 (SPF) は太古代の微化石を含む堆積岩の 1 つであり、生命誕生初期の生命活動とその環境を解明するのに適したサンプルである。 本研究の中で微化石を含む堆積岩中から発見された同心円構造を持つ微小な球形の黄鉄鉱(球状黄鉄鉱と呼ぶ)は、当時の硫黄サイクルを制約する手がかりとなる。ここでは、顕微鏡、電界放射型走査電子顕微鏡 (FE-SEM)、2次イオン質量分析計(NanoSIMS)などを使用した形態、微細構造、同位体比分析を通じて、SPFの含微化石堆積岩に産する球状黄鉄鉱の起源を推定する。
この球状黄鉄鉱は、SPFの最上部に堆積している厚さ15cm程度の黒色チャート中に見出された.先行研究においてこの黒色チャートの下部は珪化した砂岩であり,上部は不整合でユーロバサルトが堆積している.球状黄鉄鉱を含む黒色チャートは不定形の有機物が散在し,微化石状の組織も観察される.この黒色チャート中に産する球状黄鉄鉱全体では直径5-20μm程度で,中心に直径1μm程度の球形の組織(核)を中心に持つ.そこから有機物を含むレイヤーと黄鉄鉱のレイヤーが外側に向かって繰り返すような同心円状の構造をしている.SEM観察から黄鉄鉱の結晶が密なレイヤーと, 隙間が多く外側方向に成長するような針状結晶からなるレイヤーが存在していることがわかった.これは堆積物内の環境の違いに起因する黄鉄鉱の成長速度の違いを反映していると考えられる.球状黄鉄鉱は通常2-5層に黄鉄鉱が多層化したものが見られ,単一もしくはクラスター状に連なって存在している.層状の構造を持たない微小な1つの球で存在する場合も見られる.断面はほとんど円形に近い.岩石全体にシリカベインが発達しており,有機物や黄鉄鉱を横切りその構造を破壊していた.これらの産状から,球状黄鉄鉱は有機物に富むチャート層の変成初期,少なくとも堆積物の固化より前, に形成していたと推測された.
さらにその成長のし方を推測することを目的として,NanoSIMSを用いて同心円構造をもつ黄鉄鉱のレイヤーごとの硫黄同位体測定を行い, その局所変動の観察を行なった.本分析の測定誤差は約1‰で, スタンダードの黄鉄鉱におけるばらつきは1.1‰であった.その結果,一つの球状黄鉄鉱内で最も内側の核と最も外側のレイヤーの間で最大約10‰のδ34S値の変動が見られた.同様の分析を複数の球状黄鉄鉱に対して行ったところ,核のδ34S値は低く,-10.7‰から+9.8‰までのバリエーションを持っていた.外側のレイヤーは最大で+15.8‰を示し平均的なδ34S値は核のものより高く,約+4‰であった.一方で核部分よりもδ34S値のバリエーションは小さかった.これらの値,特に球状黄鉄鉱の核で得られたものは微生物的な硫酸還元が核の形成に関与していた可能性を示唆している.外側に向かってδ34S値が高くなる傾向は,レイリー分別の特徴だと考えられる.