日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG06] 地球史解読:冥王代から現代まで

2024年5月29日(水) 13:45 〜 15:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:柏原 輝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)


13:45 〜 14:00

[BCG06-07] クライオジェニア紀間氷期の海洋循環と海綿動物の進化:バイオーマーカーと炭素同位体比の記録

*狩野 彰宏1、齊藤 諒介3古山 精史朗4白石 史人2 (1.東京大学大学院理学系研究科、2.広島大学大学院理学研究科、3.山口大学理学部、4.東京海洋大学海洋資源エネルギー学部)

キーワード:原生代、クライオジェニア紀、炭素同位体、海綿動物

2度の全球凍結があったクライオジェニア紀は氷の時代であるが,その間氷期には動物の進化に進展があったとされる。全球凍結が終わった時,維持された高い二酸化炭素による強い温暖化と風化作用,富栄養化した海洋では大量の一時生産があり,分解しきれない有機物は層状化した海に蓄積もしくは滞留する。海洋の嫌気的部分に溜まった有機物は数100万年かけて分解され,やがて酸素に富む状態になる。この一連のシナリオはマリノアン氷期後のエディアカラ紀の各種同位体層序によく記録され,生命の進化は化石記録にも残される。一方,スターチアン氷期後のクライオジェニア紀間氷期では研究例が比較的少なく後発的であったが,エディアカラ紀と共通する部分がいくつかあることが分かってきた。例えば,世界各地の炭素同位体層序をまとめると1)キャップカーボネートの負の値,2) +8‰程度まで増加傾向,3) 第一の負の異常値,4) 長期間の高い値(+10‰まで),5) -10‰までの大幅な低下,6) ゆっくりとした増加をいう特徴を持つ。この変化の傾向はよりエディアカラ紀の炭素同位体層序と多くの共通点がある,本発表では中国とオーストラリアでのクライオジェニア紀間氷期の研究例を紹介し,この時期の海洋構造と生態系について議論する。

中国南部でのクライオジェニア紀間氷期はFulu層とDatangpo層で構成される。両者は主に砂岩頁岩が主体であるが,Fulu層では鉄鉱層が,Datangpo層ではMn炭酸塩が化学的炭酸塩岩として認められる。湖南省西部にはDatangpo層のMn鉱床があり,有機物に富む石灰質頁岩から保存良好なバイオマーカーが得られた。その成分は緑色硫黄細菌・紅色硫黄細菌・メタン資化細菌の卓越を示し,緑藻類やシアノバクテリアは極めて少ないことを示す。また,海綿動物を示す成分は検出されなかった。おそらく,成層化した海域で非酸素発生型光合成,メタン生成,硫酸還元,嫌気的メタン分解が起こっていたものと考えられる。これは炭素同位体層序的にはStage 2もしくはStage 4に相当する。

南オーストラリアのFlinders Rangesではこの時代に炭酸塩と砕屑岩による厚いシークエンスが発達した。最上部のTrezona層には海綿とされる化石粒子が含まれており,その炭素同位体比は-8‰まで低下している。これはTrezona Anomalyとも呼ばれ,Stage5に相当するエディアカラ紀のShrum Anomalyと似た性格を持つ。

クライオジェニア紀のバイオマーカーの記録は海綿が間氷期の後期に現れることを考えるとTrezonaの海綿化石の真偽はさておき,この時期に海綿が進化していた可能性は高い。その時期はDatangpo層Mn鉱床の上位,Trezonas層の下位であろう。Trezona層の化石層準では次第に炭素同位体比がプラスの方向へと戻っていく。海綿動物は海洋に蓄積した有機物を取り除き,それがほぼ無くなった頃,酸化的な海洋へと戻ったのでろう。