09:00 〜 09:15
[G01-01] 2024能登半島地震から考える防災教育のあり方
★招待講演
キーワード:2024能登半島地震、防災教育
2024年1月1日16:10(日本標準時)に発生した能登半島地震は、さまざまな教訓を提供している。今回、事前に提供されていた情報がどれ程住民に正しく浸透していたかを検証し、今後の他地域も含めた防災に役立てるべく、これまでに提供されていた情報毎に整理して考察してみた。
1. 日本海東縁から富山湾のテクトニクスについて
日本海東縁はユーラシアプレート(「アムールプレート」とする見方もある)と北米プレート(「オホーツクプレート」とする見方もある)の境界とされており、その境界は富山トラフを経て糸魚川・静岡構造線につながるとされている。1983日本海中部地震など、これまで日本海東縁で発生した地震はほぼ東西圧縮型の逆断層であり、日本海東縁が収束型プレート境界であることを示している。
2. 能登半島北岸沖の活断層の存在と、それによる津波浸水深評価
半島北岸に5本の活断層が存在することは、例えば「産総研活断層データベース」でも明示されている。「石川県における津波想定について」(平成24年)に於いても、日本海東縁部、能登半島東方沖、石川県西方沖と併せて、「能登半島北方沖」の震源を仮定した津波浸水深評価が行われ、しかも、想定マグニチュードMw7.7、断層長95km、5断層の連動を仮定して、評価を行っていた。この評価は平成29年に見直しが行われ。それに基づく新たな津波想定評価が実施されている。
過去の、例えば2007年・2023年の地震と同様、今回の地震でも、CMT解では北西・南東方向~東西方向の圧縮による逆断層型であった。これにより、半島北岸での地殻の隆起のため、北岸よりは寧ろ、半島の東岸の内湾側での津波被害の方が大きく、更に、海上保安庁の水路測量調査によって、富山湾内の富山深海長谷の斜面の50mの崩落が津波を引き起こしたとの報告もあった。今回の地震は、活断層に沿った140kmの長さの断層によるとする解析結果であり、明らかに活断層が連動して破壊を起こした結果に基づくものである。このような、活断層の存在や、活断層に沿って、東から西に向けて約40秒掛けて破壊が起こったとする活断層の性質が、余り知られていなかった可能性もある。
3. ハザードマップの整備状況
各種ハザードマップの整備については、各自治体で進められており、国土地理院では、「わがまちハザードマップ」として、日本全国の洪水、内水、ため池、高潮、津波、土砂災害、火山、震度被害のハザードマップを公表している。しかし、これら全ての項目について、ハザードマップが完全に示されているわけではない。石川県の19地区についてこのハザードマップを調べてみたが、例えば洪水については18地域、津波については14地域のマップが示されている。一方、震度被害については11地域、液状化被害については6地域に留まっていた。但し、液状化被害については北陸地方整備局によるマップが提供されており、ほぼ全県をカバーしているようである。
4. 段丘
今回の地震では、能登半島の北岸に沿って最大4m近くの隆起が発生したとの報告がある。段丘の形成は、海退による急激な水面低下によることもあるが、今回のような活断層に沿った逆断層型の地震によっても、充分に形成される。そのことへの警戒が不充分であった可能性がある。
5. 木造家屋の倒壊
今回の地震では、周期1~2秒の地震動が卓越する地域で木造家屋の倒壊が多く、従って、犠牲者が多く発生したとの報道もある。実際、周期1~2秒の地震では、加速度が小さくとも揺れは大きくなる(気象庁による)。本来であれば、どの地域でこの周期の地震動が卓越するかが事前に明らかとなっていれば、ハザードマップに反映させることができたが、残念ながらそれは叶わなかった。
6. 液状化マップ
上記液状化被害予測マップに於いても、検討が充分であるかの検証が必要である。例えば、金沢市のマップでは、近隣の陸上の森本・富樫断層帯による地震(震度6弱~6強)の発生に伴う液状化危険度の予測に基づくマップが公表されており、今回の能登半島沖の活断層による地震に伴う液状化は評価されていない。
結論としては、データの不足もさることながら、せっかくの貴重な調査データが一部の専門家の手にあるにも関わらず、広く防災教育に活かすことが出来なかったことが、これだけの被害を生じた一因ではないかと推察される。博物館などで、専門家による最新の知見を一般向けに易しく解説する「科学インタープリター」が徐々に市民権を得てきている(特に、天文・宇宙分野で)が、防災についても、専門家による知見を理解し、常に最新の観測研究成果を入手しつつ、現在どのデータが不足しているかについても把握し、これを一般向けに易しく解説し、常に防災意識を喚起する「防災インタープリター」を育成する必要性がある。
1. 日本海東縁から富山湾のテクトニクスについて
日本海東縁はユーラシアプレート(「アムールプレート」とする見方もある)と北米プレート(「オホーツクプレート」とする見方もある)の境界とされており、その境界は富山トラフを経て糸魚川・静岡構造線につながるとされている。1983日本海中部地震など、これまで日本海東縁で発生した地震はほぼ東西圧縮型の逆断層であり、日本海東縁が収束型プレート境界であることを示している。
2. 能登半島北岸沖の活断層の存在と、それによる津波浸水深評価
半島北岸に5本の活断層が存在することは、例えば「産総研活断層データベース」でも明示されている。「石川県における津波想定について」(平成24年)に於いても、日本海東縁部、能登半島東方沖、石川県西方沖と併せて、「能登半島北方沖」の震源を仮定した津波浸水深評価が行われ、しかも、想定マグニチュードMw7.7、断層長95km、5断層の連動を仮定して、評価を行っていた。この評価は平成29年に見直しが行われ。それに基づく新たな津波想定評価が実施されている。
過去の、例えば2007年・2023年の地震と同様、今回の地震でも、CMT解では北西・南東方向~東西方向の圧縮による逆断層型であった。これにより、半島北岸での地殻の隆起のため、北岸よりは寧ろ、半島の東岸の内湾側での津波被害の方が大きく、更に、海上保安庁の水路測量調査によって、富山湾内の富山深海長谷の斜面の50mの崩落が津波を引き起こしたとの報告もあった。今回の地震は、活断層に沿った140kmの長さの断層によるとする解析結果であり、明らかに活断層が連動して破壊を起こした結果に基づくものである。このような、活断層の存在や、活断層に沿って、東から西に向けて約40秒掛けて破壊が起こったとする活断層の性質が、余り知られていなかった可能性もある。
3. ハザードマップの整備状況
各種ハザードマップの整備については、各自治体で進められており、国土地理院では、「わがまちハザードマップ」として、日本全国の洪水、内水、ため池、高潮、津波、土砂災害、火山、震度被害のハザードマップを公表している。しかし、これら全ての項目について、ハザードマップが完全に示されているわけではない。石川県の19地区についてこのハザードマップを調べてみたが、例えば洪水については18地域、津波については14地域のマップが示されている。一方、震度被害については11地域、液状化被害については6地域に留まっていた。但し、液状化被害については北陸地方整備局によるマップが提供されており、ほぼ全県をカバーしているようである。
4. 段丘
今回の地震では、能登半島の北岸に沿って最大4m近くの隆起が発生したとの報告がある。段丘の形成は、海退による急激な水面低下によることもあるが、今回のような活断層に沿った逆断層型の地震によっても、充分に形成される。そのことへの警戒が不充分であった可能性がある。
5. 木造家屋の倒壊
今回の地震では、周期1~2秒の地震動が卓越する地域で木造家屋の倒壊が多く、従って、犠牲者が多く発生したとの報道もある。実際、周期1~2秒の地震では、加速度が小さくとも揺れは大きくなる(気象庁による)。本来であれば、どの地域でこの周期の地震動が卓越するかが事前に明らかとなっていれば、ハザードマップに反映させることができたが、残念ながらそれは叶わなかった。
6. 液状化マップ
上記液状化被害予測マップに於いても、検討が充分であるかの検証が必要である。例えば、金沢市のマップでは、近隣の陸上の森本・富樫断層帯による地震(震度6弱~6強)の発生に伴う液状化危険度の予測に基づくマップが公表されており、今回の能登半島沖の活断層による地震に伴う液状化は評価されていない。
結論としては、データの不足もさることながら、せっかくの貴重な調査データが一部の専門家の手にあるにも関わらず、広く防災教育に活かすことが出来なかったことが、これだけの被害を生じた一因ではないかと推察される。博物館などで、専門家による最新の知見を一般向けに易しく解説する「科学インタープリター」が徐々に市民権を得てきている(特に、天文・宇宙分野で)が、防災についても、専門家による知見を理解し、常に最新の観測研究成果を入手しつつ、現在どのデータが不足しているかについても把握し、これを一般向けに易しく解説し、常に防災意識を喚起する「防災インタープリター」を育成する必要性がある。