日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2024年5月26日(日) 09:00 〜 10:15 103 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(国立極地研究所)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、丹羽 淑博(国立極地研究所)

10:00 〜 10:15

[G04-05] ADS(北極域データアーカイブシステム)の海氷データを利用した海洋・極地教育

*丹羽 淑博1毛利 亮子1矢吹 裕伯1 (1.国立極地研究所)

キーワード:海洋教育、極地教育、北極海、海氷、地球温暖化

地球上で温暖化の影響を最も明瞭に示す現象に北極海の海氷の減少がある。事実、北極海の夏季の海氷面積は過去40年間で半減し、今世紀半ばにほぼ消滅してしまうと予測されている。地球温暖化の影響を教えるために、この北極海の海氷減少は小・中・高校の理科、社会科、地理の教科書や地図帳の中でよく取り上げられている。
現在の学校教育では、現実のデータを活用した探究的な学習が推進されている。そのため、地球温暖化の教育でも、児童生徒が科学データに基づいて議論・判断・考察する能力の育成が求められている。そこで、高校生を対象に、北極域の温暖化や北極海の海氷変化の物理過程の理解をねらいとしてインターネットで公開されている衛星観測データを利用した授業を実施したので報告する。

・授業実践
授業は2022年10月と2023年2月に東京都と埼玉県の2つの公立高校で実施した。両校とも文科省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けており、高校1,2年生対象のSSHの特別授業として行った。授業で使用したデータは、国立極地研究所のADS(北極域データアーカイブシステム) https://ads.nipr.ac.jp/ が提供する人工衛星搭載マイクロ波放射計によって観測された北極海の海氷密接度分布である。ADSでは1979年から現在まで1日ごとの海氷分布の画像データを公開している(Fig.1)。
授業でははじめに北極の気候変化における重要性と観測方法について説明を行い、それから実習を行った。実習では、生徒一人ひとりノートパッドやノートパソコンを操作してADSの北極海の海氷分布データにアクセスし、海氷面積が年々減少している様子を観察した。さらに、ADSのグラフ表示機能を使って北極海の夏季の海氷面積が何年後に消滅するか予測を行った。
それから、北極海の海氷の生成・融解をより詳しく議論するためにADSの機能を使って1年間の海氷分布の季節変化の動画を作成し、作成した動画を観察して気づいたことを1人ずつ順に発表してもらった。その際、深い観察を促すため生徒には前の人が既に発表した内容とは違うことを答えてもらうようにした。その結果、生徒たちは多くのことを発見することができた(Fig.2)。例えば、ある生徒は北極海の海氷は浅いロシア沿岸域で形成されることに気づいたり、北極海の海氷はグリーンランドの東海岸に沿って運ばれ、暖かい大西洋に入り、そこで最終的に融解することに気づくことができた。
上記の実習に続いて、授業ではさらに海氷が生成される北極海と深い対流が起きるノルウェー海の海洋構造の対比を示すため、簡単なコップを使った実験を行った(Fig.3)。このようなアクティブな学習活動を通して、生徒たちは海洋物理の基本原理とともに、北極海の海氷の形成・融解過程の様々な側面を学ぶことができた。