日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2024年5月28日(火) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、座長:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)、菊地 一輝(中央大学 理工学部)

14:45 〜 15:00

[HCG23-05] 砂漣発生時の堆積物中の溶存酸素濃度分布の時間変化:水槽実験での可視化の試み

*澁谷 孝希1遠藤 徳孝1 (1.金沢大学大学院自然科学研究科)

キーワード:リップル、移流、拡散、酸素、透水性堆積物、浅海域

砂質堆積物は普遍的に存在し、陸域のみならず、浅海域や大陸棚などの海洋を含め地球上の様々な場所の基質を構成し、それぞれの環境の特徴を決める要因の一つとなっている。粘土質の凝集性堆積物と比べると間隙率が高く、堆積物中では間隙水流による物質輸送が卓越し、微生物による酸素消費を促進する環境を作り出している。一般的な透水性堆積物の酸素フラックス動態は、底質への酸素供給量が堆積物―水境界面を横切る酸素輸送速度に制限されるという移流性間隙水流を駆動源とする輸送メカニズムに支配されていることが示唆されてきた。近年では、底質での微地形形成による間隙水交換サイクルの活発化が、砂質堆積物中の酸素運搬・消費を促進する可能性が提示されている。砂質堆積物が分布するような比較的水深が浅い環境下では、底質の堆積物に波などの振動流が作用しウェーブリップルと呼ばれる微地形が生じる。ウェーブリップルが発達している場合、底面が平らな状態と比べて、底質中での溶存酸素の分布にはどのような差異が生じるかについて、砂質リップルと移流との関係性が酸素オプトード画像を用いた実験より示唆されてきた。Kessler et al. (2012) では、人工リップルを作成し、それが崩れない程度の流速により循環させた水槽内で酸素オプトード画像を撮影した。また、Precht et al. (2004) では、振動流を起こすことで水槽内にリップルを自発的に発生させ、その酸素オプトード画像を撮影した。両者ともリップルのトラフ(谷)付近の堆積物中で溶存酸素が高濃度、クレスト(峰)付近で低濃度である様子が確認された。これらの実験は条件が異なるため、酸素濃度分布を大きく変動させる要素やパラメータが明確になっておらず、微地形と物質循環との関連性は未だその詳細が十分解明されたとは言えない。そこで、本研究では、透水性堆積物環境下でリップルが形成された場合の酸素動態を支配する要素を探り、その変化を捉えることで酸素の供給領域を把握することを目指し、酸素オプトードを利用したモデル実験を行った。昨年は、堆積物中に有機物がない場合、すなわち堆積物中での酸素消費が起こらない(生物学的な要因を除いた)条件で、移流性間隙水流による水理学的な要因のみを考慮したときの有酸素領域を把握することに努めた。オプトード画像を25分間撮影した結果、有酸素領域が帯状になっており、トラフとクレストでの空間的差異が見られなかった。これは、間隙水流が堆積物表面に沿うように流れているためであると考えられた。この結果から2つの可能性(仮説)が考えられる:(1)溶存酸素の駆動源は移流である(2)酸素消費をもたらす要素が堆積物中に存在しない限り、有酸素領域に空間的差異が生じない。(1)の仮説を検証するため、前回と同様の条件下で、観測時間をより長く360分に設定し、砂質微地形と有酸素領域の関係性について、オプトード画像撮影により検討することとした(現在実験を進行中)。亜硫酸ナトリウムを用いて水槽中の溶存酸素を一旦完全に除去した状態を初期条件とし、微地形は予め人工的に作ることはせずに、作用させた流れによって自発的に発生させる。今後、様々な水理条件で実験を行う予定だが、それらとの比較対象のため予察的に、底質地形が平らな状態で、且つ、流れのない状態で、有酸素領域が拡散のみでどのように拡大していくかを調べる試行を行った。その結果、実験開始後約120分間は下方向(深度が深くなる方向)への有酸素領域の活発な変化が見られ、それ以降は、変化が緩やかになった。短時間(前回)の場合よりも堆積物内の有酸素領域が広がった。したがって、長期的なスケールでは、堆積物中の拡散も無視できないことが明らかになった。今後は、水理条件に対して、移流と拡散とにより有酸素領域の空間的差異がどのように生み出されていくか明らかにするとともに、(2)の仮説を検証するために酸素を消費する有機物を入れた実験も行うことで、底質浅部の酸素動態の理解に貢献できるものと期待できる。