日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2024年5月28日(火) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、座長:菊地 一輝(中央大学 理工学部)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、川村 喜一郎(山口大学)

16:00 〜 16:15

[HCG23-08] デルタ地形の水槽実験から読み解く太古火星の海水準変動

*鬼頭 蓮1長谷川 精1武藤 鉄司2Trishit Ruj3、小松 五郎4 (1.高知大学理工学部、2.長崎大学環境科学部、3.岡山大学惑星物質研究所、4.ダヌンツィオ大学)

キーワード:デルタ地形、火星、水槽実験

現在の火星は表面に液体の水が存在しない,極寒で乾燥した環境である.しかし火星表層にはバレーネットワークやアウトフローチャネルといった流水地形や,デルタ(三角州),海岸線地形が見られ,約41∼37億年前には北半球の低地(北部低地)に広大な海があったと考えられている.しかし,海の存在期間や消失過程については未だ良くわかっていない.そこで本研究では長崎大学の実験水槽を用いることで,火星表層に見られるデルタ地形の成因と太古火星の海水準変動の解明を試みた.
 本研究ではまず,長崎大学の水槽実験を用いて,海水準変動に応じたデルタ地形の変化を調べた.実験では砂と水を上流から供給しながら,水槽の水位を上昇/下降させ,形成されるデルタ地形を調べた.その結果,水位上昇時には段々地形であるステップ状デルタ,下降時に舌状の堆積地形が海側に伸びていくロブ卓越型デルタ,停滞時には分流チャネルが発達したチャネル分岐型デルタが形成されることが明らかになった.
次に,衛星画像から火星表面のデルタ地形を観察し,水槽実験で形成された3種類の形状に類似したデルタ地形の分布を調べた.さらにクレーターの数密度から各デルタ地形の形成年代を推定した.その結果,海水準下降や停滞時に形成されるロブ卓越型デルタとチャネル分岐型デルタは,標高-1670m ~ -4116mの古海岸線付近の平野に見られ,約36~35億年前の年代を示した.この年代は海の存在時期とおおむね一致することが分かった.一方,水位上昇で形成されるステップ状デルタは標高+2698m ~ -4211mと幅広い標高のクレーター内部のみに見られ,約34~32億年前の年代を示した.
 以上の結果から,約36~35億年前頃に大規模な海退が起こり,それに伴ってロブ卓越型デルタとチャネル分岐型デルタが形成されたと考えられる.一方で,約34~32億年前頃には広大な海は存在せず,火山活動等に伴う一時的な温暖化で氷河の融解や地下水の流出が起こり,クレーター内で湖が発達することでステップ状デルタが形成されたと考えられる.即ち,約35~34億年前に太古火星に広がっていた北部低地の海は消失し,局地的に湖が存在する環境へ転換した可能性が明らかになった.