日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

09:15 〜 09:30

[HDS09-02] アンサンブルメンバー数が洪水リスクの予測精度に与える影響

*大泉 伝1川畑 拓矢1、小林 健一郎2,1斉藤 和雄3,1デュック レ4,1、太田 琢磨1 (1.気象研究所、2.神戸大学、3.東京大学大気海洋研究所、4.東京大学)

キーワード:洪水リスク、アンサンブル予報、洪水予測

近年、線状降水帯に起因する洪水により大きな被害が出ている。特に深夜や明け方の洪水を予測するためには12時間程度前に洪水のリスク情報を得る必要がある。気象庁のキキクルは最大で6時間前までの洪水のリスク情報を提供している。しかし12時間先の決定論的予報を行うのは現在の気象数値予報モデルは難しい。そのため、リードタイムを伸ばすためにはアンサンブル予報による確率予報が重要である。気象庁は21メンバーのメソアンサンブル予報(MEPS)を配信している。しかし、21メンバーの予報では線状降水帯のような局所的な現象の予報は難しい。この様な問題に対して100メンバーや1000メンバーの大アンサンブル気象予報が行われている。しかし、この様な大規模な予報を行えば線状降水帯による洪水を予測できるかは十分に調べられていない。特に中小規模河川では降水の僅かな位置や強度のズレによって流況が変わるため予測が難しい。そこで本研究では2020年7月4日の球磨川での洪水事例を対象に、球磨川に接続する36の支流を対象に洪水予測の予測精度を調べた。用いたモデルは気象庁のキキクルである。100,1000メンバーとMEPSの降水の予報結果を用いた。
球磨川の支流を流域面積で分類すると20km2以下が12河川、40km2以下が17河川、100km2以下が6河川、100km2以上は川辺川の553km2のみであった。20km2以下の河川で洪水が規模にかかわらず洪水が発生する確率を比較すると1000メンバーの実験では解析雨量を用いて計算した洪水のピークの時間帯に洪水のリスクが高まる傾向を示した。100メンバーの実験では解析雨量によるピークの時間帯に対して数時間遅れて洪水のリスクが高まる傾向を示した。MEPSはほとんど洪水のタイミングを予測できなかった。警報を超える洪水の予測では1000メンバーは100メンバーよりも高い確率を示すことが多かった。MEPSについては警報を超える洪水の予測はほとんどできなかった。40km2以上の河川についても同様の傾向が見られた。流域面積が一桁大きい川場川では1000メンバーが警報級の洪水が60%の確率でピーク時に起こることを12時間前に予測した。100メンバーでは警報級の洪水が40%の確率で発生することを予測したがピークよりも2時間遅かった。一方MEPSでは警報級の洪水を予測できなかった。
本研究では1000メンバーが100メンバーよりも良い予報をする傾向を示した。MEPSについては12時間先の洪水発生の有無についてのみ予測できる可能性を示した。流域面積を細かく分類して調べたが概ね流域面積100 km2以下では同様の結果であった。この結果から事例や流域面積のサンプルを増やして大アンサンブルの有効性を検証する必要があることが示唆された。