日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:15 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

09:45 〜 10:00

[HDS09-04] 高密度航空レーザー計測点群を用いた地形発達・ハザード・被災状況の分析・可視化と相対標高モデル(REM)利用の提案

*小山 真人1 (1.静岡大学)

キーワード:地理情報システム、高密度航空レーザー計測点群、相対標高モデル、地形発達とハザード、河川・土砂・火山災害、静岡県点群

静岡県は2019〜21年度に全国に先駆けてほぼ全県域の航空レーザー計測による高密度(陸域で16点以上/平方m)の3次元点群データ(VIRTUAL SHIZUOKA)を取得し、無償公開している(https://virtualshizuokaproject.my.canva.site)。データ内は建物や植生を含むDSM(Digital Surface Model)と地盤標高のみのDTM(Digital Terrain Model)に分離され、沿岸部水深のALB(Airborne LiDAR Bathymetry)データも利用可能である。演者は地形・地質・防災など様々な分野の調査研究にこのデータを活用し、新たな知見や分析・可視化手法の可能性を見出しつつある。それらを紹介して各分野専門家からの助言を仰ぎたい。

1.火山体の内部構造や形成過程の分析
 4000年前に噴火した伊豆東部火山群大室山スコリア丘とその周囲の地形・地質を分析し、宇宙線ミューオンを用いた透視技術(ミュオグラフィ)も併用して、周辺に流れた溶岩流も含めた同火山の内部構造と発達過程を明らかにした(Nagahara et al., 2022, Bulletin of Volcanology)(付図A)。また、1707年富士山宝永噴火を起こした火口付近の地形・地質を分析し、UAVによる近接写真のフォトグラメトリも併用しつつ、従来見解と異なる新たな火口近傍堆積物の層序と噴火推移を構築した(小山, 2023, 富士山学, 3号)(付図B)。

2.河川氾濫・土砂災害の発生状況把握
 2022年台風15号による静岡市内の中規模河川・巴川の氾濫について、現地調査にもとづく浸水深データをもとに詳細な浸水深分布図を描き、微地形や人工的な障害物との対応関係を明らかにした(小山, 2023, 静岡大地球科学研報)(付図C)。なお、静岡県の点群データは2021年熱海土石流の崩壊・土砂移動分析にも大きな力を発揮している(鈴木ほか, 2021, 都市防災研究論文集)。

3.相対標高モデルを用いた河川氾濫のハザード分析
 現行の洪水ハザードマップは、氾濫流の数値シミュレーションを破堤箇所ごとに繰り返し、それらを重ね合わせることで描いているため、作成時間と費用が大きなものとなり、とくに中小規模河川での整備が遅れている。これに対し、平均海面を基準面とした通常の標高モデルではなく、河床を基準面とした相対標高モデル(以下、REM: Relative Elevation Model)を描くことにより、最寄りの河床からの標高分布図の形で、河川氾濫の面的リスクをあらわす簡易型のハザードマップを短時間かつ少ない費用で作成できる。その際に建物や植生も含めて図化することで、建物ごとの浸水リスクもわかりやすく表現可能である。そのことを巴川や狩野川流域での実例を示しながら提案したい(付図D)。

4.REMを用いた地形発達史の解明
 REMは、ハザード分析・表現のみならず、河成段丘や扇状地の地形発達史の解明にも有効である。これまで河成段丘の対比と分析には、河道に沿った地形の縦断面図が利用されることが多かったが、REMを描くことによって同時期に形成された河成段丘の対比と面的な追跡が容易となる。また、扇状地を囲む河川の河床を基準面としてREMを描くことで、扇状地の発達過程の推定にも役立てられる。以上のことを狩野川水系の河成段丘や三島扇状地の事例とともに紹介する。三島扇状地では、そこに伏在する富士山三島溶岩流(約1万年前)の到達範囲推定にも役立てることができた。

付図A:伊豆東部火山群大室山スコリア丘の精密地形と山体内の密度構造(Nagahara et al., 2022にもとづく)。山頂直下の火道から分岐した高密度部分(岩脈)がLava flow IVとSouth Craterの形成に寄与したことを示す。
付図B:富士山南東斜面の宝永山付近の地形の精密傾斜量図(小山, 2023)。宝永山の周囲に見られる縞模様は宝永噴火で降り積もったテフラの堆積構造。
付図C:2022年台風15号による静岡市巴川流域の浸水深マップの一部(小山, 2023)。
付図D:狩野川の河床面を基準とした周辺地域の3D相対標高図の例。
(いずれも静岡県点群データを使用して作図、CとDの背景には地理院地図を使用)