日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2024年5月27日(月) 10:45 〜 12:00 コンベンションホール (CH-A) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)

10:45 〜 11:00

[HDS09-06] 常時微動計測で把握した茨城県桜川低地の地盤災害リスク

*小荒井 衛1、谷貝 颯太1、中野 早登2先名 重樹3 (1.茨城大学理学部理学科地球環境科学コース、2.境町役場、3.防災科学技術研究所)

キーワード:地盤災害リスク、常時微動計測、桜川低地

茨城県の霞ケ浦流域に位置する桜川低地について、常時微動計測を行って地下構造を推定し、地盤災害リスクの検討と地形発達史の復元を試みた。本発表では、地形発達史についての統一見解が得られていないため、地盤災害リスクに焦点を充てて発表する。
桜川低地の128地点で長・先名(2006)の手法を用いて常時微動計測を行った。各計測地点でS波速度構造を求め、S波速度が300m/sを越える深度を工学的基盤深度とし、深度30mまでの平均S波速度をAVS30とした。
桜川低地の中流域では低位段丘が発達しているが、自然堤防と比較して氾濫平野との比高が変わらず、両者の区別を地形形態のみから行うことは困難である。その両者の違いを常時微動計測で行うことができるのかということにも、本研究の目的がある。
桜川低地内のボーリングデータを収取し、常時微動計測で求めたS波速度構造と比較したところ、桜川低地全体で深度10m付近と深度20m付近に厚い礫層が存在し、上位の礫層でS波速度が200m/sを越え、下位の礫層で300m/sを越えた。この結果を参考にして、ボーリングデータの無い桜川低地全体の地下構造を推定した。
桜川低地中流域(小田・高岡・金田地区)には低位段丘が発達するが、低段段丘上でもその周辺の氾濫平野でも基盤深度が数m程度と浅くAVS30も250~350m/s程度を示し、低位段丘の周辺には埋没段丘が広がっているものと推定される。埋没段丘を間に挟んで右岸側と左岸側には、基盤深度が20m前後でAVS30が150~250m/s程度の計測点が帯状に繋がっており、寒冷した海面低下期に桜川(古鬼怒川)が下刻したと推定される埋没谷が2つ存在すると推定される。上流側の君島地区と下流側の虫掛地区では低位段丘が見られず自然堤防が発達する地区であるが、自然堤防での計測結果は、AVS30が小さく基盤深度が深いものとAVS30が大きく基盤深度が浅いものに2分され、前者が推定した埋没谷の延長部、後者が埋没段丘の延長部に位置している。
桜川低地下流部の土浦市街地においても、昔からの市街地であった中心分はAVS30が大きく基盤深度が浅いため埋没段丘が存在すると考えられ、現在の桜川沿いと新川沿いの2領域でAVS30が小さく基盤深度が深いため埋没段丘が存在すると判断される。以上の結果を総合的にまとめて、埋没段丘と埋没谷に位置を平面図にまとめて整理した。地形種で見ると、自然堤防と氾濫平野については、地下構造の違いによって地盤災害リスクが違ってくるので、常時微動計測の結果を加味することで、地形種だけに拠らない災害リスク評価の可能性を示すことが出来た。
ボーリングデータと常時微動計測の結果のみだと、深度10m前後と深度20m前後の礫層が存在することしか示せず、深い方が3~4万年前の古鬼怒川系の礫層、浅い方が7~8000年前の桜川系の礫層と単純に考えたいが、植木(2020)で報告されている地形発達史を参考にすると、実際にはかなり複雑な地塊発達史を考える必要があり、浅い礫層も深い礫層も一連の礫層と単純に考えることは難しく、今後の検討課題としたい。

謝辞:本研究の検討にあたって、帝京科学大学の植木岳雪教授と上高津貝塚ふるさと歴史の広場の一木絵理学芸員には、ボーリングコア試料の観察の機会を頂き、研究内容に関してアドバイスを頂いた。心から感謝申し上げる。