日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)

17:15 〜 18:45

[HDS09-P02] 南海トラフ地震の多様な地震発生シナリオの防災訓練における利活用と課題の抽出~大阪府社協での事例~

*水井 良暢1,2、本田 和也3時実 良典4、石丸 晴海5、磯野 猛2、池田 真幸2中村 洋光2藤原 広行2,6 (1.リアルタイム地震・防災情報利用協議会、2.防災科学技術研究所、3.社会福祉法人大阪府社会福祉協議会、4.応用地質株式会社、5.三菱電機ソフトウエア株式会社、6.筑波大学)

キーワード:南海トラフ、地震、発生シナリオ、多様性、不確実性、社会福祉協議会

1.はじめに
将来の発生が確実視されている南海トラフ沿いの巨大地震に対して、「通常と異なる現象」発生後の時間推移についてもその地震発生の時空間的な多様性の一例として取り込み、地震や津波のハザードやそれによって引き起こされるリスク情報を提供可能とする地震防災基盤シミュレータの開発を行っている。
これまでの企業等の防災対策においては、南海トラフ地震の公開されている強震動や津波、それによる被害等の情報が、想定される震源域全体が一時に破壊するいわゆる最大クラスに対する情報であることから、それ以外の地震発生シナリオが想定されない傾向にあった。一方、南海トラフ沿いで異常な現象が観測された場合には「南海トラフ地震臨時情報」が発表されることになっており、対策を考える上で、多様な地震発生シナリオを想定することの今後の重要性は増していると考える。
そこで本研究では昨年(令和4年度)に続き、南海トラフ地震の活動を把握・予測する研究から生成される発生シナリオ情報の利活用手法と課題の抽出を行った。災害発生時に被災者の生活支援を実施する災害ボランティアセンターの運営と福祉施設のケアを担う大阪府の社会福祉法人社会福祉協議会に多様性のある地震発生シナリオを災害発生の基礎情報として提供し、令和6年1月26日に防災訓練を実施した。

2.発生シナリオの抽出
本研究は、多様性のある地震発生シナリオを、1つ以上の震源域の組み合わせ(「震源域セット」と記す)で表現する。その組み合わせ数は大量となることから、ここでは大阪府に甚大被害が発生し尚且つ広域にも一定程度の被害が発生するケースを想定した震源域セットを選んだ。具体的な地震発生シナリオ選定の流れは以下である。
①確率論的津波ハザードで最も大きい重みが付与されている震源域セットと影響重視の震源域セットを抽出
②上記①の中間ケースを抽出
③大阪府の関係者会議にて利用するケースを検討し利用シナリオを確定
結果的に利用された震源域は、②の中間ケースとなった。想定情報として被害地域における地震動と津波浸水深を250mメッシュで生成し、建物と人的被害の推定結果もリスト化し防災訓練の基礎情報として利用した。

3.情報利活用手法と課題の抽出
令和6年1月26日の防災訓練では、対策本部の大型スクリーンや各ブロック会場のオンラインの画面にて地震動と津波浸水深の想定情報が表示されたWebGISマップを利用し、各参加者が被害状況に関して共通認識を持ちながら訓練が進められた。大阪府内にて甚大被害が発生したと想定し、その対処のための災害ボランティアセンターの開設と運営対応について検証され、関連福祉施設の被害への対処について検討が行われた。
結果、多様性のある地震発生シナリオを考慮し、最大規模とは異なる大阪府での甚大被害に注視したケースでの防災訓練を科学的裏付けのあるデータを利用したことにより、これまでよりも現実的な計画立案と訓練の実施が可能となった。課題としては、大阪府と同様に被災地となる周辺府県からの支援が期待できないこと、後発地震が発生する地域に支援を期待してよいのかどうかが不明確なことがあげられた。また、不確実性を考慮し、1つだけのシナリオへの備えだけでなく、複数の多様なシナリオに同時に備えることができるかどうかを解決する取り組みが不足していることが今後の課題であることがわかった。実際にはコスト、人員などの限界があり、その中で優先順位を決めて、何を選択するかと言う現実的な対処の判断が組織運営者には求められていることが再認識された。

謝辞:本研究は文部科学省科学技術試験研究委託事業である防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクトの一環として実施しました。関係各所の方々に心より感謝いたします。