日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 防災リテラシー

2024年5月27日(月) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)


11:45 〜 12:00

[HDS10-10] リスク・リテラシーおよび地震への認識や心理属性が防災行動に及ぼす影響

*大友 章司1木村 玲欧2、中澤 幸介2 (1.関東学院大学、2.兵庫県立大学)

キーワード:リスク・リテラシー、防災行動、心理属性、地震

災害リスクの研究分野では、危機的状況において人々が安全確保行動を取らないことが大きな課題になっている。本研究では、人々の災害対応能力を向上させるため、リスク・リテラシー、個人属性や心理属性といった要因が地震の防災行動の関連を分析することで、行動の促進もしくは抑制する側面について検討する。

 リスク・リテラシーとは、リスク判断や行動選択に行う上での基礎知識や思考能力として位置付けられている。このようなリテラシーと防災行動の関連については十分に検討されていない。その一方で、昨今、従来の数値的な被害想定に加え、実際に身の回りで起き得る被害の様相を、時間経過ごとに想定されるシーン別の災害シナリオによるコミュニケーションが導入されている。実際に災害時に想定されるの被害のイメージが強いほど、防災行動が増加することが示唆されている。本研究では、災害時の被害のイメージが、リスク・リテラシーや、個人属性、心理属性により影響され、防災行動を導く新たなプロセスを仮定した。災害に関連する個人属性として、被災経験やハザードマップの認識を仮定した。被災経験やハザードマップは、安全確保行動との結びつきは強くはないことが指摘されている。災害に関連する心理属性として、制御焦点理論を仮定した。制御焦点理論では、安全確保のために行動を選択する促進焦点と、リスク回避のために行動を選択する予防焦点の2つの側面がある。本研究では、これらの要因が災害の被害のイメージに影響し、その災害イメージが防災行動を導く媒介プロセスを検討することを目的とした。

 本研究では、2023年12月に調査会社の登録モニターを用いたweb調査を実施した。性別(男性、女性)×年代(20代、30代、40代、50代、60代以上)の10層から各300名(合計3000名)を抽出し、回答者を募集した。回答時間やSatisfice項目の不正解などの不適切な回答者を除いた1159名(男性 = 51%、女性 = 49%、平均年齢 = 47.19(SD = 15.32)歳)の分析対象とした。

 分析の結果、回答者は平均して4.14(SD = 4.87)個の防災行動を取っていた(Figure 1_a)。85%の人が将来に地震が生じると予期をしていた。被災経験のある回答者は33%であった。ハザードマップの認識がある人は68%であった。地震災害時の被害想定のイメージは、生活やインフラの危機、被害の拡大の2つの側面が確認された(Figure 1_b)。リスク・リテラシーは、リスク回避志向、リスク認知のパラドックス、リスク対便益のトレードオフ、リスクの基礎知識の4つの側面が確認された(Figure 1_c)。制御焦点は、抑制焦点と促進焦点の2つの側面が確認された(Figure1_d)。

 防災行動に対するこれらの先行要因の関連について検討するため、構造方程式モデリング(最尤法)によるパス解析を行なった(Figure1_e)。防災行動に直接関連していたのは、生活やインフラの危機のイメージ、被災経験、ハザードマップの認識、リスク回避志向、リスク認知パラドックス、リスクの基礎知識であった。また、生活やインフラの危機のイメージには、地震の予期、ハザードマップの認識、リスク回避志向、リスク認知のパラドックス、リスクとベネフィットのトレードオフ、リスクの基礎知識、促進焦点が関連していた。被害の拡大のイメージには、地震の予期、ハザードマップの認識、リスク回避志向、リスク認知のパラドックス、リスクとベネフィットのフォレードオフ、リスクの基礎知識、予防焦点、促進焦点が関連していた。さらに、先行要因が生活やインフラの危機のイメージを介して防災行動に及ぼす媒介効果についても分析を行なった(Table 1) 。いずれの媒介効果も確認された。

 本研究により、防災行動は、主に災害時の生活やインフラの危機のイメージによって方向づけられてることが示唆された。災害時の具体的な被害をイメージすることは、防災行動を促進するうえで重要であるといえる。さらに、災害時の被害の具体的なイメージの形成には、地震災害の知識だけでなく、リスクを理解する能力、安全を求める心理傾向が関与していた。また、リスク・リテラシーのリスク回避傾向から防災行動を減少させる関連、リスク認知のパラドックスやリスクの基礎知識からは防災行動を増加させる関連がみられた。リスク・リテラシーのレベルが防災行動への動機づけにも影響していると考えられる。被災経験は災害時のイメージや防災行動とほとんど関連がみられなかった。先行研究においても被災経験と防災行動の関連が一貫しておらず、行動を方向づける大きな要因にならない可能性がある。

 以上、人々の災害への対応能力を向上として、災害に対する知識、リスク事象としての理解の仕方や、安全への焦点が、災害時のイメージを形成し、防災行動に結びつける段階的なプロセスを前提とした方略が考えらる。このように人々のインサイトに基づく防災リテラシーのデザインが重要である。