17:15 〜 18:45
[HDS11-P11] 潮位のばらつきを考慮した確率論的浸水リスク評価手法の検討
キーワード:確率論的浸水リスク評価、潮位のばらつき、費用便益分析
1.浸水リスク評価における潮位のばらつき
津波の浸水域は潮位が高いほど拡大し、浸水による被害も大きくなる。地方自治体などの津波被害想定では、危険側の想定とするため、朔望平均満潮位を基準とすることが一般的である。本研究では、日本海溝・千島海溝沿いで発生する地震に対する効果的な津波対策の促進に向け,潮位のばらつきを考慮した確率論的浸水リスク評価を試みた。
2.対象地区の選定
浸水リスク評価の対象地区を選定するため、日本海溝・千島海溝沿いの地震による津波に対して,現況の海岸堤防・防波堤・河川堤防等の構造物(ここでは現況堤防と呼ぶ)が浸水被害を防御できる確率(非超過確率)を評価した。非超過確率は、海岸線でのハザードカーブ(大野・他(2022、JpGU))を用いて算出した。この現況堤防の評価や地形、人口および市街地の面積等を考慮し,北海道釧路市を対象地区として選定した。
3.潮位の確率密度関数に関する予備的検討
潮位のばらつきは、Baba et al.(2022)を参照し、釧路市港町の潮位データ(2013年~2022年、気象庁)から作成した確率密度関数を浸水深データにコンボリューションする方法で評価する。この時、潮位と浸水深の確率密度関数の形状が一致している必要がある。両者の形状を比較するため、千島海溝沿いに設定した1つの波源断層モデル(Mw9.2)に対して浸水シミュレーションを実施したところ、潮位と浸水深の確率密度関数は、標高が急激に変化する領域等においてその形状が一致しないことを確認した。
4.潮位の影響を考慮した浸水シミュレーション
潮位と浸水深の確率密度関数の形状を一致させるため、潮位の確率密度関数の補正を試みた。日本海溝と千島海溝沿いの115個の波源断層モデルを選別し、浸水シミュレーションを実施した。浸水シミュレーションは、最低潮位(-121cm)、最高潮位(+93cm)および最頻潮位(最も確率密度が大きい潮位)(+15 cm)の3つの潮位条件で実施し、得られた浸水深データを用いて、潮位の確率密度関数を推定した。その後、「最大の浸水範囲は最高潮位の条件で生ずる」と仮定し、最高潮位の潮位条件で得られた浸水深データに対して、潮位の確率密度関数から推定された浸水深の確率密度関数を下方にコンボリューションした。
5.堤防嵩上げの費用便益分析
浸水シミュレーションは、現況堤防と嵩上げ堤防の2つの堤防条件で実施し、浸水被害軽減効果を検証した。堤防の嵩上げ量は、海岸でのハザードカーブから算出した再現期間1000年相当の堤防高となるように設定した。2つの堤防条件において、ケース毎(波源断層モデルごと)の浸水による総被害(物的被害と人的被害)を算出し、平均的な軽減被害額を求めた。堤防を嵩上げした場合の概算工事費と得られた軽減被害額を用いて費用便益分析を実施し、堤防嵩上げの有効性を評価した。発表では、費用便益分析の結果についても紹介する。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害に対するハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施している。
津波の浸水域は潮位が高いほど拡大し、浸水による被害も大きくなる。地方自治体などの津波被害想定では、危険側の想定とするため、朔望平均満潮位を基準とすることが一般的である。本研究では、日本海溝・千島海溝沿いで発生する地震に対する効果的な津波対策の促進に向け,潮位のばらつきを考慮した確率論的浸水リスク評価を試みた。
2.対象地区の選定
浸水リスク評価の対象地区を選定するため、日本海溝・千島海溝沿いの地震による津波に対して,現況の海岸堤防・防波堤・河川堤防等の構造物(ここでは現況堤防と呼ぶ)が浸水被害を防御できる確率(非超過確率)を評価した。非超過確率は、海岸線でのハザードカーブ(大野・他(2022、JpGU))を用いて算出した。この現況堤防の評価や地形、人口および市街地の面積等を考慮し,北海道釧路市を対象地区として選定した。
3.潮位の確率密度関数に関する予備的検討
潮位のばらつきは、Baba et al.(2022)を参照し、釧路市港町の潮位データ(2013年~2022年、気象庁)から作成した確率密度関数を浸水深データにコンボリューションする方法で評価する。この時、潮位と浸水深の確率密度関数の形状が一致している必要がある。両者の形状を比較するため、千島海溝沿いに設定した1つの波源断層モデル(Mw9.2)に対して浸水シミュレーションを実施したところ、潮位と浸水深の確率密度関数は、標高が急激に変化する領域等においてその形状が一致しないことを確認した。
4.潮位の影響を考慮した浸水シミュレーション
潮位と浸水深の確率密度関数の形状を一致させるため、潮位の確率密度関数の補正を試みた。日本海溝と千島海溝沿いの115個の波源断層モデルを選別し、浸水シミュレーションを実施した。浸水シミュレーションは、最低潮位(-121cm)、最高潮位(+93cm)および最頻潮位(最も確率密度が大きい潮位)(+15 cm)の3つの潮位条件で実施し、得られた浸水深データを用いて、潮位の確率密度関数を推定した。その後、「最大の浸水範囲は最高潮位の条件で生ずる」と仮定し、最高潮位の潮位条件で得られた浸水深データに対して、潮位の確率密度関数から推定された浸水深の確率密度関数を下方にコンボリューションした。
5.堤防嵩上げの費用便益分析
浸水シミュレーションは、現況堤防と嵩上げ堤防の2つの堤防条件で実施し、浸水被害軽減効果を検証した。堤防の嵩上げ量は、海岸でのハザードカーブから算出した再現期間1000年相当の堤防高となるように設定した。2つの堤防条件において、ケース毎(波源断層モデルごと)の浸水による総被害(物的被害と人的被害)を算出し、平均的な軽減被害額を求めた。堤防を嵩上げした場合の概算工事費と得られた軽減被害額を用いて費用便益分析を実施し、堤防嵩上げの有効性を評価した。発表では、費用便益分析の結果についても紹介する。
本研究は防災科研の研究プロジェクト「自然災害に対するハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施している。