10:45 〜 11:00
[HGM03-07] 琵琶湖はなぜそこにあるのか?
キーワード:琵琶湖、スラブ形状、大地形、dislocation model
琵琶湖は滋賀県北部に位置する日本最大の湖で,その面積は670 km2に達する.古琵琶湖層群が堆積を開始したのと同じ約400万年前に伊賀上野付近で形成され,その後徐々に北方へ移動したと考えられている.
琵琶湖の成因としてまず挙げられるのは,逆断層の下盤側ということである.例えば,NHKの地学系人気テレビ番組「ブラタモリ」でもその考えに沿って説明されていた.確かに,琵琶湖の水深は,東で浅く西縁で深いという非対称なものであり,琵琶湖西岸断層帯の逆断層運動により,比良山地の隆起と共にうまく説明ができる.
しかし,近畿地方のみを考えても,逆断層はいくつも存在する一方,琵琶湖は唯一の存在である.つまり,「逆断層の下盤」というのは,琵琶湖が存在する重要な理由の一つであるとしても,他の重要な理由が明らかに抜け落ちている.我々は,重要な理由が他にあと2つあると考えている.
一つは,伊勢湾から若狭湾に至る中部日本の沈降帯に位置することである.この沈降の原因は,その直下でフィリピン海スラブが尾根状の形状で沈み込んでいることに求められる(深畑・森,2022, 2023, 本大会発表).つまり,沈み込み帯の変位の食い違いモデル(Matsu'ura & Sato, 1989, GJI; Fukahata & Matsu'ura, 2016, GJI)を用いて,物理的に説明できる.広域的な東西短縮のため養老山地や鈴鹿山脈が逆断層運動により隆起していることなどで乱されてはいるが,若狭湾のリアス海岸や濃尾平野の存在からも示唆されるように,この地域では北西ー南東方向に帯状に沈降が生じており,そのことはフリーエア重力異常からも裏付けられる.
もう一つの重要な理由は,琵琶湖が瀬戸内海の延長上,いわゆる中央低地帯に位置することである.中央低地帯とは,沈み込み帯において外帯(前弧)山地と火山弧の間に形成される相対的な低地帯のことで,カスカディアやチリなどスラブが比較的に低角で沈み込む島弧で広く観察される.東北日本における北上川〜阿武隈川の低地帯も,仙台平野で前弧山地が途切れてはいるが,それを除けば典型的な中央低地帯と言える.前述の沈み込み帯の変位の食い違いモデルに基づき,いくつかのケースについて,前弧山地の背後にこの中央低地帯が再現されることが数値計算からも確かめられている.中部日本の沈降帯がプレート沈み込みの3次元的効果である一方,この中央低地帯はプレート沈み込みの2次元的効果である.鮮新世には,瀬戸内の低地帯が近畿地方を縦断して濃尾平野の辺りまで広がっていたと考えられている(市原,1966,地球科学).冒頭で述べたように,琵琶湖もそこで誕生した.現在は,フィリピン海スラブが谷状に沈み込むことでその直上に位置する紀伊山地が激しく隆起し,この中央低地帯の構造が乱され,琵琶湖を北に移動させたと考えられる.
琵琶湖の成因としてまず挙げられるのは,逆断層の下盤側ということである.例えば,NHKの地学系人気テレビ番組「ブラタモリ」でもその考えに沿って説明されていた.確かに,琵琶湖の水深は,東で浅く西縁で深いという非対称なものであり,琵琶湖西岸断層帯の逆断層運動により,比良山地の隆起と共にうまく説明ができる.
しかし,近畿地方のみを考えても,逆断層はいくつも存在する一方,琵琶湖は唯一の存在である.つまり,「逆断層の下盤」というのは,琵琶湖が存在する重要な理由の一つであるとしても,他の重要な理由が明らかに抜け落ちている.我々は,重要な理由が他にあと2つあると考えている.
一つは,伊勢湾から若狭湾に至る中部日本の沈降帯に位置することである.この沈降の原因は,その直下でフィリピン海スラブが尾根状の形状で沈み込んでいることに求められる(深畑・森,2022, 2023, 本大会発表).つまり,沈み込み帯の変位の食い違いモデル(Matsu'ura & Sato, 1989, GJI; Fukahata & Matsu'ura, 2016, GJI)を用いて,物理的に説明できる.広域的な東西短縮のため養老山地や鈴鹿山脈が逆断層運動により隆起していることなどで乱されてはいるが,若狭湾のリアス海岸や濃尾平野の存在からも示唆されるように,この地域では北西ー南東方向に帯状に沈降が生じており,そのことはフリーエア重力異常からも裏付けられる.
もう一つの重要な理由は,琵琶湖が瀬戸内海の延長上,いわゆる中央低地帯に位置することである.中央低地帯とは,沈み込み帯において外帯(前弧)山地と火山弧の間に形成される相対的な低地帯のことで,カスカディアやチリなどスラブが比較的に低角で沈み込む島弧で広く観察される.東北日本における北上川〜阿武隈川の低地帯も,仙台平野で前弧山地が途切れてはいるが,それを除けば典型的な中央低地帯と言える.前述の沈み込み帯の変位の食い違いモデルに基づき,いくつかのケースについて,前弧山地の背後にこの中央低地帯が再現されることが数値計算からも確かめられている.中部日本の沈降帯がプレート沈み込みの3次元的効果である一方,この中央低地帯はプレート沈み込みの2次元的効果である.鮮新世には,瀬戸内の低地帯が近畿地方を縦断して濃尾平野の辺りまで広がっていたと考えられている(市原,1966,地球科学).冒頭で述べたように,琵琶湖もそこで誕生した.現在は,フィリピン海スラブが谷状に沈み込むことでその直上に位置する紀伊山地が激しく隆起し,この中央低地帯の構造が乱され,琵琶湖を北に移動させたと考えられる.
