日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM03] 地形

2024年5月28日(火) 10:45 〜 11:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:岩橋 純子(国土地理院)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、高波 紳太郎(明治大学)、Newman R Newman(Hokkaido University)、座長:岩橋 純子(国土地理院)、高波 紳太郎(明治大学)、Daniel R Newman(Hokkaido University)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)


11:00 〜 11:15

[HGM03-08] 1923年大正関東地震に伴って発生した神奈川県西部における斜面崩壊の規模―頻度分布

★招待講演

*高橋 尚志1山根 悠輝2諏訪 貴一2 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:大正関東地震、斜面崩壊、土砂生産、グーテンベルグ・リヒター則

巨大地震の地震動,およびその後の余震・豪雨に誘発されて発生する斜面崩壊は,山地における特筆すべきハザードであると同時に,長期的な山地の解体・発達や河川流域の土砂生産を議論する上でも無視できない現象である(Fan et al., 2019など).そのため,近年もしくは過去に発生した地震イベントに伴う斜面崩壊のアーカイブを蓄積・整理し,その分布や規模などの特徴に関して議論することは,防災上ならびに山地や河川の地形発達を理解する上で重要である(Wasowski et al., 2011).
1923年に発生した大正関東地震では,関東地方南部の山地・丘陵地,特に丹沢山地や箱根火山において多数の斜面崩壊が発生した(井上,2013など).神奈川県は地震後の調査成果などをもとに,「5万分の1土地分類基本調査」(神奈川県企画部企画調整室編,1987; 1988; 1989; 同企画総務室編,1990a; 1990b)の「自然災害履歴図」に「関東大地震及びその直後の斜面崩壊」をマッピングしている.本資料や空中写真などを用いて,大正関東地震に伴う崩壊地に関する研究は複数行われている(建設省土木研究所,1995; Koi et al., 2008; 須田ほか,2004など)が,その多くは紙媒体での分析ないし一部の地域・流域のみを対象としたものであり,丹沢山地や箱根火山の全体を対象とした広域なデジタイズやそれに基づく空間分析は十分に行われていない.
1703年の元禄関東地震でも,神奈川県や山梨県東部では土砂災害が発生したことが指摘されている(今村・北原,2013)ことから,過去の相模トラフの地震イベントに伴って,丹沢山地などでは斜面崩壊が繰り返し発生してきた可能性がある.そのため,大正関東地震に伴う斜面崩壊の空間分布や規模―頻度分布の特性を把握することは,開析が進む箱根火山や急速な隆起をしている丹沢山地の解体過程,ならびにそこでの土砂生産と周辺域の平野の地形発達史を理解する上でも重要な資料になりうる.本研究では,GISを用いて「自然災害履歴図」をジオリファレンスし,「関東大地震及びその直後の斜面崩壊」を手動でトレースしてポリゴン化した.そのデータを用いて崩壊地の空間分布や頻度―規模分布の特性について分析を行ったので,その結果を報告・議論する.
「自然災害履歴図」に記載されていた「関東大地震及びその直後の斜面崩壊」は,1923年9月1日の本震のみでなく,約半月後の9月14~15日の大雨や,約半年後の丹沢地震を含む余震などで発生した崩壊地も含むと考えられる(井上,2013など).また,一部では複数の崩壊地が連結して1つの崩壊地として記載されていると考えられる箇所などもみられた.上記の点の考慮は必要であるが,関東地震で発生した崩壊地の総数は約20,000ヶ所で,崩壊地総面積は約70 km2であることが明らかになった.崩壊源の高度(崩壊地ポリゴン内の最高標高)の出現頻度は,標高約500 m付近で最大となる.特に,丹沢山地の中南部や箱根山地の外輪山斜面で崩壊地が密集しており,山地ごとの崩壊地数でみると丹沢山地は約16,000ヶ所,箱根火山は約3,400ヶ所であった.特に,丹沢山地および足柄山地での崩壊地の総面積は約60 km2であり,全体の約8割以上を占める.地質ごとに見ると,丹沢山地の大部分を占める火砕岩類が約45 km2と最大で,全体の約6割以上を占めていた.続いて,火山岩類が約8.3 km2,深成岩類が約7.4 km2の順で,崩壊地面積が大きかった.
大正関東地震で発生した全崩壊地の面積規模と累積個数をみると,おおよそ103 m2~106 m2の範囲で,グーテンベルク・リヒター則(G-R則)に従って面積の大きいものほど減少する関係がみられた.いずれの地質分布域においてもおおむねG-R則の関係は見いだされ,G-R則の式に当てはめた場合のa値は8~10,b値は1.5~2の範囲にあった.a値,b値ともに変成岩類が最大で,火山岩が最小となった.b値は変成岩類と堆積岩類が2前後,火山岩類と火砕岩類が1.5~1.6を示した.このことは,変成岩類や堆積岩類の分布域では面積の小さい崩壊地が比較的多く発生していたことを示す.発表では,上記に加えて標高や斜面傾斜,起伏などの地形学的特性も踏まえた解析結果も含めて議論する予定である.
本研究は,東北大学災害レジリエンス共創研究プロジェクトによる助成を受けて実施した.