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[HQR05-P10] 諏訪湖堆積物コアに認められる縞状粘土層の特徴と成因
キーワード:湖成堆積物、更新世–完新世、縞状堆積物、XRFコアスキャナー
はじめに:諏訪湖は,中部山岳地域の内陸盆地に位置する高標高湖であり,その流域や湖内環境は,更新世後期以降の気候変動に対して鋭敏に反応してきた [1].諏訪湖沿岸で掘削された堆積物コア(更新統上部~完新統)は,縞状粘土層を断続的に挟むことで知られる [1].諏訪湖は,現在,風や冬季の結氷現象による表層水の密度変化によって湖水の鉛直循環が生じている [2].コアに認められる縞状粘土層は,鉛直循環の長期間の停止を示している可能性が高く,現在とは異なる湖水条件下で保存されたことが想定される.本発表では,鏡下観察,XRFコアスキャナー(ITRAX)分析,XRF分析,CHN元素分析に基づき縞状粘土層の記載を行い,その形成要因を考察した.
コアの概要:諏訪湖の堆積物コア(SK2021コア)は,掘削長30.0 mであり,諏訪湖南東岸において掘削された.粒度,堆積構造,構成物,古土壌の特徴に基づくと,このコアの堆積ユニットは,下位よりユニットI(河川・氾濫原堆積物),ユニットII(湖成堆積物),ユニットIII(デルタ堆積物)に区分される.木片の放射性炭素年代に基づくと,ユニットIIでは,約13.3–4.2 cal kyr BPの年代を示す.
縞状粘土層の特徴と成因:ユニットII(湖沼堆積物)は,主に,珪藻に富む暗色塊状泥層からなるが,深度17.9–17.3 m(約12.7–11.8 cal kyr BP)と深度16.4–16.3 m(約11.3–11.2 cal kyr BP)に縞状粘土層を挟む.縞模様は,厚さ数mmの暗色・オリーブ灰色葉理,灰色葉理,黄褐色葉理からなり,その重なりに規則性はみられない.鏡下観察とXRFコアスキャナー分析に基づくと,それぞれの葉理は,Fe, S, P, Cu, Pb, Baに富むシデライト葉理,Si, Srに富む珪藻葉理,S, Ca, Al, Laに富むフランボイダルパイライト・砕屑物・ペレット葉理に相当する.硫化物の沈殿を示すシデライト葉理が優勢であり,縞状粘土層は,溶存酸素が少ない底層水の停滞による還元環境下で保存されたと考えられる.このことは,最終氷期末から完新世初期にかけて,諏訪湖の鉛直循環が断続的に停止したことを示す.XRF分析とCHN元素分析によると,縞状粘土層は,塊状泥層と比べてTiO2/SiO2, Al2O3/SiO2, P2O5/SiO2, TN/TOCが高く,流域からの土砂供給と湖内生物生産性の増加を示す.貧酸素水塊発生の要因として,流域からの土砂(土壌栄養塩類)供給による富栄養化と生物生産性の増加,冬季の結氷期の欠如が挙げられ,最終氷期末の気候変動が諏訪湖の鉛直循環に寄与した可能性がある.
文献:[1] Hatano, N. et al., 2023, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol. 614, 111439. [2] 豊田政史ほか, 2010, 陸水学雑誌 71, 45–52.
コアの概要:諏訪湖の堆積物コア(SK2021コア)は,掘削長30.0 mであり,諏訪湖南東岸において掘削された.粒度,堆積構造,構成物,古土壌の特徴に基づくと,このコアの堆積ユニットは,下位よりユニットI(河川・氾濫原堆積物),ユニットII(湖成堆積物),ユニットIII(デルタ堆積物)に区分される.木片の放射性炭素年代に基づくと,ユニットIIでは,約13.3–4.2 cal kyr BPの年代を示す.
縞状粘土層の特徴と成因:ユニットII(湖沼堆積物)は,主に,珪藻に富む暗色塊状泥層からなるが,深度17.9–17.3 m(約12.7–11.8 cal kyr BP)と深度16.4–16.3 m(約11.3–11.2 cal kyr BP)に縞状粘土層を挟む.縞模様は,厚さ数mmの暗色・オリーブ灰色葉理,灰色葉理,黄褐色葉理からなり,その重なりに規則性はみられない.鏡下観察とXRFコアスキャナー分析に基づくと,それぞれの葉理は,Fe, S, P, Cu, Pb, Baに富むシデライト葉理,Si, Srに富む珪藻葉理,S, Ca, Al, Laに富むフランボイダルパイライト・砕屑物・ペレット葉理に相当する.硫化物の沈殿を示すシデライト葉理が優勢であり,縞状粘土層は,溶存酸素が少ない底層水の停滞による還元環境下で保存されたと考えられる.このことは,最終氷期末から完新世初期にかけて,諏訪湖の鉛直循環が断続的に停止したことを示す.XRF分析とCHN元素分析によると,縞状粘土層は,塊状泥層と比べてTiO2/SiO2, Al2O3/SiO2, P2O5/SiO2, TN/TOCが高く,流域からの土砂供給と湖内生物生産性の増加を示す.貧酸素水塊発生の要因として,流域からの土砂(土壌栄養塩類)供給による富栄養化と生物生産性の増加,冬季の結氷期の欠如が挙げられ,最終氷期末の気候変動が諏訪湖の鉛直循環に寄与した可能性がある.
文献:[1] Hatano, N. et al., 2023, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol. 614, 111439. [2] 豊田政史ほか, 2010, 陸水学雑誌 71, 45–52.