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[HQR05-P11] 穂高連峰・蒲田川右俣谷槍平のモレーン状地形を覆う斜面崩壊物質
キーワード:氷河地形、高山帯の斜面崩壊、疑似モレーン、完新世の地形変化
近年,日本アルプス各地のモレーンの成因が再検討され,それらの一部は氷河成ではなく大・中規模の斜面崩壊に由来することが指摘されている。本研究では,槍・穂高連峰の主稜線西面を流域とする蒲田川右俣谷の槍平に分布する高低2段のモレーン状地形(Y-HとY-L;標高2000 m前後)について,地表を覆う長径2 m以上の巨大岩屑の分布と岩種(地質)を調査した。その結果,Y-HとY-Lのいずれも,地表は非摩耗な巨大岩屑で覆われ,岩屑のほとんどがデイサイト質溶結凝灰岩(Wm)や熱変成で再結晶化したWmからなり,閃緑斑岩(Dp)も一部含まれることが判明した。槍平から約3 km上流の右俣谷源流域には明瞭な圏谷が形成されており,その一帯には火山角礫岩(Ya),結晶片岩(My),花崗閃緑岩(Gdt/Gt)が露出する。したがってY-HとY-Lを覆う巨大岩屑の移動・運搬に氷河が直接関与したのであれば,YaやMy,Gdt,Gtに由来する岩屑が発見されるはずであるが,現時点では未発見である。巨大岩屑の大半を占めるWmは槍平で右俣谷に合流する左支・南沢の流域をはじめ,槍平東方の山地斜面に広く露出する。モレーン状地形を覆う巨大岩屑は槍平東方の斜面が崩壊して移動-定置した可能性が高い。南沢下部右岸(槍平小屋の東北東約700 m)には平板状のスラブ(裸岩斜面)が存在する。これを氷食斜面とする考えもあるが,主稜線の圏谷群からは隔離独立しており,涵養域の維持など氷河形成の点では不自然な面もある。現時点では作業仮説にとどまるが,このスラブが斜面崩壊発生域の有力な候補の一つとなる。ただし,崩壊物質がY-HとY-Lの地形全体を作っているのか,先に存在していた丘状地形の表層を覆っているだけなのかは未詳であり,さらに検討を要する。