09:15 〜 09:30
[HTT16-07] The events of simultaneously occurring overseas and domestic immigrations of a migratory moth unveiled by strontium isotope analysis
キーワード:侵入害虫、ストロンチウム同位体、後退流跡線解析
前線等による気流を利用して長距離移動する昆虫がいる。これらには農業害虫も多く含まれる。ツマジロクサヨトウSpodoptera frugiperda(チョウ目;ヤガ科)は、南北アメリカ熱帯・亜熱帯地域原産の農業害虫である。幼虫は広食性で、トウモロコシ、サトウキビ、イネ、ソルガム、牧草、野菜類などイネ科植物を中心に幅広い作物を食害する。本種は2016年以降、アフリカ、インド、東南アジア、中国南部、台湾、韓国と瞬く間に分布を拡大し、2019年7月に日本でも確認された。この急速な分布拡大は、主にその強い移動特性とモンスーンによる気流によってもたらされたものと考えられる。本種は九州本土以北では越冬できないため、これらの地域では毎年春から初夏になると温暖な地域から気流に乗って飛来してくると考えられる。同時に、沖縄や九州などの西南日本に飛来した個体群が各地の圃場で発生し、次世代以降の個体群がより北東方面へ国内間の移動を行っていると予想されている。しかしながら、トラップに誘殺された個体の識別が困難であることから、このような国内移動経路が存在するかどうかは不明である。そこで、農作物の産地判別等に活用されているストロンチウム(Sr)放射起源同位体比を利用した解析を行い、さらに後退流跡線解析と併せることで、本種がどのように移動しているのか推定を試みた。
トラップに誘殺されたツマジロクサヨトウの飛来源を推定・識別するためには、各地域の寄主植物、またはそれらを餌として生育した本種のSr放射起源同位体比を測定し、その地域の目安となる数値、すなわちレファレンスデータを調べる必要がある。そのため、日本各地の圃場にて寄主植物(トウモロコシ、サトウキビ、コムギ、イタリアンライグラス)を採集、またはそれらを餌に飼育した本種の虫体をレファレンスとした。また2020~2022年に日本各地でフェロモントラップにより野外成虫を採集し、サンプルとして用いた。レファレンスと野外虫のSr放射起源同位体比(87Sr/86Sr)を測定し、比較を行った。その結果、愛知県長久手市(87Sr/86Sr : 0.70900前後)と京都府亀岡市(0.71000前後)では87Sr/86Srがレファレンス等の値よりも低い誘殺個体(0.70714, 0.70581)が見られた。それらの個体の回収日から遡って後退流跡線解析を行ったところ、鹿児島県からの流跡線が確認されたことから、これらの個体が鹿児島県からの分散個体である可能性が示唆された。さらに鹿児島県南さつま市では、3~4月の調査にて県本土のレファレンス(0.70750前後)より87Sr/86Sr の高い個体(>0.70900)が多く見られた一方で、値の低い個体(0.70600-0.70900)もいくつか見られた。これらの誘殺の前に中国南部や台湾、南西諸島からの流跡線が確認されたこと、沖縄県から奄美大島にかけて南西諸島のレファレンスの値や中国南部・台湾のSrアイソスケープから、値の高い個体はそれらの地域からの飛来個体であると考えられる。値の低い個体は、トカラ列島や種子島等からの流跡線が確認されたこと、それらの地域におけるレファレンスやSrアイソスケープの値、九州本土では低温により本種は越冬が困難であると考えられる等から、トカラ列島や種子島等で発生、飛来したものである可能性がある。これらのことから、海外飛来だけでなく国内分散による飛来が同時期に起こることが示唆された。
本研究は、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)」の課題による支援を受けて実施した。
トラップに誘殺されたツマジロクサヨトウの飛来源を推定・識別するためには、各地域の寄主植物、またはそれらを餌として生育した本種のSr放射起源同位体比を測定し、その地域の目安となる数値、すなわちレファレンスデータを調べる必要がある。そのため、日本各地の圃場にて寄主植物(トウモロコシ、サトウキビ、コムギ、イタリアンライグラス)を採集、またはそれらを餌に飼育した本種の虫体をレファレンスとした。また2020~2022年に日本各地でフェロモントラップにより野外成虫を採集し、サンプルとして用いた。レファレンスと野外虫のSr放射起源同位体比(87Sr/86Sr)を測定し、比較を行った。その結果、愛知県長久手市(87Sr/86Sr : 0.70900前後)と京都府亀岡市(0.71000前後)では87Sr/86Srがレファレンス等の値よりも低い誘殺個体(0.70714, 0.70581)が見られた。それらの個体の回収日から遡って後退流跡線解析を行ったところ、鹿児島県からの流跡線が確認されたことから、これらの個体が鹿児島県からの分散個体である可能性が示唆された。さらに鹿児島県南さつま市では、3~4月の調査にて県本土のレファレンス(0.70750前後)より87Sr/86Sr の高い個体(>0.70900)が多く見られた一方で、値の低い個体(0.70600-0.70900)もいくつか見られた。これらの誘殺の前に中国南部や台湾、南西諸島からの流跡線が確認されたこと、沖縄県から奄美大島にかけて南西諸島のレファレンスの値や中国南部・台湾のSrアイソスケープから、値の高い個体はそれらの地域からの飛来個体であると考えられる。値の低い個体は、トカラ列島や種子島等からの流跡線が確認されたこと、それらの地域におけるレファレンスやSrアイソスケープの値、九州本土では低温により本種は越冬が困難であると考えられる等から、トカラ列島や種子島等で発生、飛来したものである可能性がある。これらのことから、海外飛来だけでなく国内分散による飛来が同時期に起こることが示唆された。
本研究は、生物系特定産業技術研究支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(JPJ007097)」の課題による支援を受けて実施した。