日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2024年5月29日(水) 09:00 〜 10:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、谷水 雅治(関西学院大学)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)

10:00 〜 10:15

[HTT16-10] 同位体比で読み解く諏訪湖における水圏生態系の遷移

*浦井 暖史1,2高野 淑識2石川 尚人2小川 奈々子2、龍野 紘明1、笠原 里恵1、宮原 裕一1大河内 直彦2 (1.信州大学、2.海洋研究開発機構)

キーワード:水圏生態系、諏訪湖、安定同位体比分析、アミノ酸窒素同位体比分析

諏訪湖は,糸魚川静岡構造線上に位置する断層湖であり,湖面積の約40倍の集水域(531km2)を持つ.この集水域は山間部や人口密集地をはじめ水田や畑地を含んでおり,諏訪湖の水質は人為的な影響を強く受けている.1970年代からは,夏季にアオコと呼ばれるシアノバクテリアのブルームが発生し,景観や悪臭などの問題が生じていたが,流域下水道の共用開始に伴って水質改善が進み,1998年以降は大規模なアオコの発生は確認されていない.一方で,重要な水産資源であるワカサギは,近年では漁獲量の減少傾向が続いており,2023年12月には資源保護のため投網漁が禁止されている.このように諏訪湖は,人間活動と密接な関係がある湖であり,諏訪湖の水質や生態系に対する関心が非常に高い.

そのため諏訪湖では,水質や水圏生態系に関わる研究が古くから継続して実施されており,信州大学理学部付属諏訪臨湖実験所では1977年から現在まで定期観測を継続している.特に生態系に関しては,国内で最も長く研究されている湖のひとつであり,食物網解析に関する研究では,同位体比を用いた解析手法が国内でも最初期に実施されている[1].この手法は窒素や炭素の同位体比を測定することで,生態ピラミッドにおける栄養段階を推定することが可能となる[2].生態系における食物網解析は,生態系全体像を理解する上で重要な情報であり,生態系の維持や保全に対しても極めて有益である.近年では,アミノ酸の窒素同位体比分析による栄養段階の推定法が確立され[3],同位体比を用いた栄養段階の推定精度も向上している.

諏訪湖における同位体比を用いた研究から30年が経過しているが,その間に生態系を含む諏訪湖の環境も大きく変化している.本研究では,アミノ酸の窒素同位体比による栄養段階の推定法を用いて,諏訪湖に生息する水圏生物全体を対象とした食物網解析を実施し,アオコの大量発生時期である1980年代に得られた結果と比較しながら考察する.

本研究は,海洋研究開発機構(JAMSTEC)と信州大学との共同研究による成果の一部である.

[1] Yoshioka et al. (1994) A stable isotope study on seasonal food web dynamics in a eutrophic lake. Ecology, 75, 835-846.
[2] Minagawa M. & Wada E. (1984) Stepwise enrichment of 15N along food chains: Further evidence and the relation between δ15N and animal age. Geochimica et Cosmochimica Acta, 48, 1135-1140.
[3] Ohkouchi et al. (2017) Advances in the application of amino acid nitrogen isotopic analysis in ecological and biogeochemical studies. Organic Geochemistry, 113, 150-174.