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[HTT16-14] モンゴル高原東部ブイル湖の湖底堆積物を用いた過去89年間の環境変動解析
キーワード:堆積物、アジアモンスーン、人為起源硫黄、安定同位体
モンゴル高原東部ブイル湖はアムール川流域に位置する淡水湖である。この地域の気候は、東アジアモンスーン影響下にあり、本研究では、その変動に対する当該地域の環境影響を解明するため、ブイル湖堆積物コアの分析を進めている。本発表では、2020年3月に掘削したBuir2コア(全長49 cm)堆積物の過去約89年間の結果を報告する。
試料は1 cm間隔で分取し、凍結乾燥させた。堆積年代は210Pb–137Cs年代測定(金沢大学)とCRSモデルから求めた。生物源シリカ(Sibio)は、H2O2で有機物を、HClで炭酸塩をそれぞれ除去した後、Na2CO3を用いて抽出し、その含有量はICP-AES定量分析により求めた。また、Sibio成分抽出後の残渣(ケイ酸塩鉱物)は、全含有量から3つの各分画の含有量を差し引いて求め、その粒径はレーザー回折散乱分析(JAEA東濃)により求めた。全窒素(TN)、全硫黄(TS)、全有機炭素(TOC)含有量は、粉砕混合した試料を元素分析装置(名古屋大学)で定量した。TOC試料は、分析に先立ち、1 M HClで脱炭酸塩処理した。TOC, TN, TSのそれぞれの同位体比(δ13CTOC, δ15NTN, δ34STS)は燃焼型元素分析計を接続した安定同位体比質量分析計(地球研)を用いて決定した。
Buir2コアの堆積年代は、西暦1931~2020年であった。TOC含有量は2.60~5.82%(平均4.16±0.87%)、TN含有量は0.32~0.65%(平均0.47±0.10%)で、互いに正相関分布を示し(R = 0.87)、西暦1931~1958年にかけて減少し、その後現在にかけて上昇傾向を示す。またC/N比は8.6~12.0(平均10.4±1.0)、δ13CTOCは(–25.5~–24.1‰、平均–24.8±0.4‰)であり、堆積物中の有機物は植物プランクトンを主体とすることが示唆される(Meyers 1994)。この結果は、TOCとSibio含有量変動(6.5~15.6%、平均10.8±2.2%)との類似性からも支持される。
一方、鉱物粒径(5.2~42.0 µm、平均14.0±10.0 μm)、鉱物含有量(54.6~82.2%、平均70.7±5.7%)、δ15NTN(5.4~7.4‰、平均6.3±0.6‰)、TS含有量(0.37~0.86%、平均0.55±0.12%)の4成分は現在にかけて減少傾向を示す。この変動は、ERA5再解析データによる降水量変動パターンと良く一致する。このことは、夏季モンスーン降水量の増減によって、流域からの砕屑物や栄養塩の流入量が支配されていることを意味するものである。
δ34STS(平均7.9±1.3‰)は、西暦1934~1958年に10.7‰から5.9‰まで約5‰低下し、その後、現在にかけて約7‰でほぼ一定に推移する。西暦1934~1954年の10.7~8.4‰は、グリーンランド氷床コアの非海塩性硫酸イオン(nssSO42–)で推定される、産業革命以前の9.2±1.4 ‰と誤差の範囲で一致する(Jongebloed et al. 2023)。一方、西暦1934~1958年のブイル湖堆積物δ34STSの減少は、グリーンランド氷床コアの1970年代から1990年代後半で見られる人為的寄与の増加に伴う、δ34S (nssSO42–)の9.2±1.4~4.9±0.6 ‰への低下に対応すると考えられる。よって、ブイル湖堆積物のTS含有量とδ34STSは、大気降下物の影響を強く受けているとみなすことができる。
試料は1 cm間隔で分取し、凍結乾燥させた。堆積年代は210Pb–137Cs年代測定(金沢大学)とCRSモデルから求めた。生物源シリカ(Sibio)は、H2O2で有機物を、HClで炭酸塩をそれぞれ除去した後、Na2CO3を用いて抽出し、その含有量はICP-AES定量分析により求めた。また、Sibio成分抽出後の残渣(ケイ酸塩鉱物)は、全含有量から3つの各分画の含有量を差し引いて求め、その粒径はレーザー回折散乱分析(JAEA東濃)により求めた。全窒素(TN)、全硫黄(TS)、全有機炭素(TOC)含有量は、粉砕混合した試料を元素分析装置(名古屋大学)で定量した。TOC試料は、分析に先立ち、1 M HClで脱炭酸塩処理した。TOC, TN, TSのそれぞれの同位体比(δ13CTOC, δ15NTN, δ34STS)は燃焼型元素分析計を接続した安定同位体比質量分析計(地球研)を用いて決定した。
Buir2コアの堆積年代は、西暦1931~2020年であった。TOC含有量は2.60~5.82%(平均4.16±0.87%)、TN含有量は0.32~0.65%(平均0.47±0.10%)で、互いに正相関分布を示し(R = 0.87)、西暦1931~1958年にかけて減少し、その後現在にかけて上昇傾向を示す。またC/N比は8.6~12.0(平均10.4±1.0)、δ13CTOCは(–25.5~–24.1‰、平均–24.8±0.4‰)であり、堆積物中の有機物は植物プランクトンを主体とすることが示唆される(Meyers 1994)。この結果は、TOCとSibio含有量変動(6.5~15.6%、平均10.8±2.2%)との類似性からも支持される。
一方、鉱物粒径(5.2~42.0 µm、平均14.0±10.0 μm)、鉱物含有量(54.6~82.2%、平均70.7±5.7%)、δ15NTN(5.4~7.4‰、平均6.3±0.6‰)、TS含有量(0.37~0.86%、平均0.55±0.12%)の4成分は現在にかけて減少傾向を示す。この変動は、ERA5再解析データによる降水量変動パターンと良く一致する。このことは、夏季モンスーン降水量の増減によって、流域からの砕屑物や栄養塩の流入量が支配されていることを意味するものである。
δ34STS(平均7.9±1.3‰)は、西暦1934~1958年に10.7‰から5.9‰まで約5‰低下し、その後、現在にかけて約7‰でほぼ一定に推移する。西暦1934~1954年の10.7~8.4‰は、グリーンランド氷床コアの非海塩性硫酸イオン(nssSO42–)で推定される、産業革命以前の9.2±1.4 ‰と誤差の範囲で一致する(Jongebloed et al. 2023)。一方、西暦1934~1958年のブイル湖堆積物δ34STSの減少は、グリーンランド氷床コアの1970年代から1990年代後半で見られる人為的寄与の増加に伴う、δ34S (nssSO42–)の9.2±1.4~4.9±0.6 ‰への低下に対応すると考えられる。よって、ブイル湖堆積物のTS含有量とδ34STSは、大気降下物の影響を強く受けているとみなすことができる。