日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2024年5月29日(水) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、谷水 雅治(関西学院大学)

17:15 〜 18:45

[HTT16-P03] 岐阜市近郊における雨水・エアロゾル中の硫酸イオンの硫黄・酸素同位体比の季節変化

*香川 雅子1勝田 長貴1益木 悠馬1、由水 千景2陀安 一郎2 (1.岐阜大学教育学部、2.総合地球環境学研究所)

キーワード:硫酸エアロゾル、雨水、硫黄同位体比、酸素同位体比、季節変化

1.はじめに
大気中のエアロゾル硫酸塩や降水中の硫酸イオン(SO42-)の安定硫黄・酸素同体組成(δ18O・δ34S)は、大気環境中の硫黄サイクルを理解する上で重要な化学成分である。本研究は、中部日本における大気中の硫酸イオンの起源推定を目的とし、2018年11月から現在まで継続して雨水とエアロゾルの採取、硫黄同位体比(δ34S)と酸素同位体比(δ18O)の分析を行っている。
今回の発表は、2019年5月~2022年12月までの雨水とエアロゾル中の硫酸イオン(SO42-)及び主要イオン,δ34S,nss-δ34S,δ18Oの季節変化について報告をする。

2.観測・分析方法
雨水は18cmφのポリエチレン製の漏斗をポリエチレン製のボトルにセットした簡易雨水採取器でサンプリングを行った。大気エアロゾルは、イオン分析用は真空ポンプで8-10L/minの流量で0.2µmのPTFEフィルター上に採取し、同位体分析用はハイボリウムエアサンプラー(HV-RW型 , 柴田科学)を用い、1000 L/minの吸引流量で石英フィルター(QR-100, ADVANTEC)上に週に1回採取した。
上記のサンプルを0.2 µmメンブレンフィルターを用いてろ過したのち、陰イオン分析はイオンクロマトグラフィー(ICS-1100, Thermo Fisher Scientific)、陽イオンは誘導結合プラズマ発光分光分析装置ICP-AES(ULTIMA2, HORIBA)を用いて, 濃度の定量分析を行った。NH₄⁺は,デジタルパックテストマルチ(DPM-MT, 共立理化学研究所)を用いて分析した。
硫黄同位体比と酸素同位体比についても同様にろ過し,再度ろ過して有機物を除去した。これに10 %BaCl₂溶液を加えてサンプル中のSO₄²⁻をBaSO₄として沈殿させた。δ18O用のBaSO4はDTPA法にてNO3-を除去した(Bao, 2006)。ろ過して摘出したものを乾燥させて, それぞれ総合地球環境学研究所に既設のS-IRMS(Flash EA 2000 + ConFlo Ⅳ + delta Ⅴ plus, Thermo Fisher Scientific)とOH-IRMS(TC/EA+ConFlo III+Delta plus XP, Thermo Fisher Scientific)を用いて分析を行った。PM2.5, Oxは、環境省大気汚染物質広域監視システム(そらまめくん)のデータを解析した。

3.結果

3-1. 雨水
 雨水中のnss-SO42-濃度は0.1~8.7 mg L-1(平均1.2 mg L-1)であり、2-3月に濃度が高い傾向を示した。
nss-δ34Sは-3.1-12.4‰(平均4.0‰)、冬季が4~12‰、夏季が2~4‰であり、先行研究(e.g. Inomata et al. 2019; Sase et al. 2019)と同様に、12~3月の冬季から早春にかけて高く、夏季に低いという季節変化を示していた。δ18Oは3.9~17.7‰(平均10.7‰)で、3月に特に高い値が観測された。

3-2. エアロゾル
エアロゾル中のnss-SO42-は0.01~9.4µg m-3(平均1.4 µm-3)の範囲で変化した。PM2.5と同様に、冬季に低く春季~夏季に高い傾向が見られた。冬季の日本海側では、寒冷前線の通過時などにnss-SO4の高濃度エピソードがしばしばみられるが、内陸部の岐阜市近郊においては、冬季よりも夏季の方がnss-SO42-が高くなった。また、SO2も春季~夏季に高く、冬季に低い傾向が見られ、エアロゾル中のnss-SO42-と同様の季節変化をしたことや後方流跡線の結果から、夏季には中京工業地帯からの空気の飛来があると考えられた。
硫酸エアロゾル中のδ34Sは1.3-11.3‰(平均4.5‰), nss-δ34Sは -7.4‰(平均3.4‰)だった。雨水のような明瞭な季節変化はみられなかったが、夏季に低い値がしばしば見られた。本山ら(2000)は山形県の日本海側の鶴岡市と内陸部の山県市で硫酸エアロゾルの観測を行ったが、鶴岡市では夏季に最低値、秋季から春季のいずれかの時期に最高値を出すことが多く、山形市で明瞭な季節変化は見られないと報告している。本研究においても山形市と同様の結果であることから、冬季の日本海側では大陸からの輸送はあるが、内陸への輸送は少ないと考えられた。
δ18Oは5.3~13.0‰(平均9.9‰)だった。山本と千葉(2016)でも報告されているが、春(3月~5月)に高くなり,夏~冬(8~2月)に低くなる傾向がみられた。Ox濃度も春季に高くなることから,Oxによって生成される酸化剤(OHラジカル,H2O2 など)との反応が原因である可能性も考えられる。