17:15 〜 18:45
[HTT16-P05] 地質トレーサーによる水循環解析からみた西条平野における塩水化リスクの緩和
キーワード:塩水化、アンチモン、トレーサー、灌漑、渇水、地下水位
1.はじめに
愛媛県西条平野は地下水が豊富で、地表面の水の起源は加茂川から導水された灌漑用水、平野部中流域から湧出する浅層地下水、被圧された深層地下水と多岐にわたる。地下水は灌漑用水として利用されているが、渇水時には多量に汲み上げられ、地下水低下をもたらす。1994年7月は渇水が深刻で、大幅に地下水位が低下し、沿岸部で塩水化が進行、農業被害が発生した。本発表では、トレーサーを用いた水循環の解析とモデルによる地下水位のシミュレーションから、渇水時における地下水位低下を緩和するための考察を行った。
2.材料と方法
渇水により浅層地下水の湧出が無くなった2021年8月1~2日(加茂川流量2.7 m3 s-1)に西条平野の表流水、地下水を43ヶ所で採水し、流量を測定した。各水源のSb、Siが異なっていることに着目し、水循環のトレーサーとして用いた。各地点での水源割合はSb、Si濃度を用いた連立方程式から求めた。地下水位のシミュレーションは集中定数型タンクモデル(高瀬ら、2019)を使用した。
3.結果および考察
1994年は灌漑期に雨が少なく、特に7月1日から23日にかけては降水が無かった。灌漑用水の汲み上げ量は上記シミュレーションによると4.3 m3 s-1になり、地下水位の実測値は過去40年間で最も低い-2.52mであった。1994年7月の地下水位低下に及ぼした地下水汲み上げの影響を定量するため、上記モデルを用いたシミュレーションを行った。期間は降水が無かった24日間とし、加茂川流量(3.27 m3 s-1)、気象は当時を反映させ、地下水汲み上げ量を3 m3 s-1、4 m3 s-1、5 m3 s-1に可変した。汲み上げ量が3 m3 s-1ではほとんど地下水位は低下しなかったが、汲み上げ量が4 m3 s-1では約1 m低下した。加茂川流量を4m3 s-1にすれば、0.7mの低下であった。1994年と同様の水文環境にあった2021年において、Sbをトレーサーとし、平野末端における各水源の寄与率を算出したところ、東部では加茂川灌漑用水が73%、中部では深層地下水が65%、西部では浅層地下水と深層地下水が99%であった。流量に換算すると、加茂川灌漑用水が0.46 m3 s-1、浅層地下水が0.43 m3 s-1、深層地下水が0.45 m3 s-1、合計1.34 m3 s-1となり、これらが海へ流出していることがわかった。渇水時でも地下水汲み上げ量が4 m3 s-1から3 m3 s-1に減少すると顕著な地下水位低下は起こらない。数十年に1度の渇水期でも、加茂川からの導水の配分を効率化し、地下水の汲み上げ量を適切に管理すれば、塩水化のリスクが大幅に低下することがわかった。
愛媛県西条平野は地下水が豊富で、地表面の水の起源は加茂川から導水された灌漑用水、平野部中流域から湧出する浅層地下水、被圧された深層地下水と多岐にわたる。地下水は灌漑用水として利用されているが、渇水時には多量に汲み上げられ、地下水低下をもたらす。1994年7月は渇水が深刻で、大幅に地下水位が低下し、沿岸部で塩水化が進行、農業被害が発生した。本発表では、トレーサーを用いた水循環の解析とモデルによる地下水位のシミュレーションから、渇水時における地下水位低下を緩和するための考察を行った。
2.材料と方法
渇水により浅層地下水の湧出が無くなった2021年8月1~2日(加茂川流量2.7 m3 s-1)に西条平野の表流水、地下水を43ヶ所で採水し、流量を測定した。各水源のSb、Siが異なっていることに着目し、水循環のトレーサーとして用いた。各地点での水源割合はSb、Si濃度を用いた連立方程式から求めた。地下水位のシミュレーションは集中定数型タンクモデル(高瀬ら、2019)を使用した。
3.結果および考察
1994年は灌漑期に雨が少なく、特に7月1日から23日にかけては降水が無かった。灌漑用水の汲み上げ量は上記シミュレーションによると4.3 m3 s-1になり、地下水位の実測値は過去40年間で最も低い-2.52mであった。1994年7月の地下水位低下に及ぼした地下水汲み上げの影響を定量するため、上記モデルを用いたシミュレーションを行った。期間は降水が無かった24日間とし、加茂川流量(3.27 m3 s-1)、気象は当時を反映させ、地下水汲み上げ量を3 m3 s-1、4 m3 s-1、5 m3 s-1に可変した。汲み上げ量が3 m3 s-1ではほとんど地下水位は低下しなかったが、汲み上げ量が4 m3 s-1では約1 m低下した。加茂川流量を4m3 s-1にすれば、0.7mの低下であった。1994年と同様の水文環境にあった2021年において、Sbをトレーサーとし、平野末端における各水源の寄与率を算出したところ、東部では加茂川灌漑用水が73%、中部では深層地下水が65%、西部では浅層地下水と深層地下水が99%であった。流量に換算すると、加茂川灌漑用水が0.46 m3 s-1、浅層地下水が0.43 m3 s-1、深層地下水が0.45 m3 s-1、合計1.34 m3 s-1となり、これらが海へ流出していることがわかった。渇水時でも地下水汲み上げ量が4 m3 s-1から3 m3 s-1に減少すると顕著な地下水位低下は起こらない。数十年に1度の渇水期でも、加茂川からの導水の配分を効率化し、地下水の汲み上げ量を適切に管理すれば、塩水化のリスクが大幅に低下することがわかった。