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[HTT17-P01] 地理情報と空間表現のための裸眼立体視-補助練習具と技法修得
キーワード:地理院地図Globe、立体視補助具、立体視練習用具、教材、技能習得、仮想現実
1. はじめに
各種の地理情報は,地理学分野の教育・研究に限らず地質学や土木工学をはじめとした諸研究に不可欠なものである.近年の情報科学の進展に伴い,各種の画像・映像として広く地理情報の提供されてきている.これらの地理情報のうち,一定の条件を満たすコンテンツは容易にステレオペア化して立体視可能であることが指摘され(領木(2019)など),地理院地図Globe(国土地理院,2017)を表示するツールSVw (領木, 2019)やローカルマシンにユーザーが保有する動画ファイルまたはYouTube (2024)に公開された動画を再生するツールSWd(領木, 2023)が公開された.これらのツールをこども向けのイベント(ジオカーニバル実行委員会,2023)や職業訓練指導員研修(職業能力開発総合大学校研修部,2023)などで多くの方に紹介したところ,一般の方はもちろんのこと,一定年齢より若い応用地質業務に携わる技術者や関連技術技能を教育訓練する指導員・中等教育諸学校理科教員等のほとんどが裸眼立体視の技能を体得しておらず,その技法が存在することを知らないとの感想を述べた.そこで,簡易な工作等で作成できる平行法立体視の補助具及び交差法立体視の練習具を考案した.
2. 平行法立体視用補助具
平行法による対画像の立体視は写真技術の発明以前にすでに考案されており(広内,2013),写真の普及と共に立体視のための閲覧用装置であるステレオスコープは多くのものが考案・市販されている.また,凸レンズを用いた科学工作教材も公表されている(例えば,宇宙教育センター(2009)).しかし,これらは凸レンズが用いられているため製作工程が複雑である.そこで,上述のこども向けのイベントにおいて,凸レンズを用いずに平行法立体視を行うための簡易な紙製の補助具(図1)を考案して使用した.図2にA4サイズの製作用紙を示す.用紙内には製作手順および簡単な使用法が記述されている.
3. 交差法立体視用練習具
平行法では視線を平行に保つため,両眼の瞳孔距離以上の大きさのステレオペアは使用できない.一方,交差法では両眼の視線を交差させるので,例えば集合教育の場で教室前方に置かれたスクリーンに投影したステレオペアを全員で立体視することが可能になる.これは集合教育を行う上で大変有用な特性である.ヒトはいわゆる「より目」をして任意の点に目のピントを合わせることに慣れていない.しかし,目のピントを合わせる筋肉は随意筋であるため,訓練を行えば視線の交点にピントを合わせることが可能となる.初学者が交差法を行う際に対象の図にピントを合わせることが困難となる主な理由は,見たい図以外のものも見えているためである.従って,見たい2枚の図だけを重ねて見る工夫を行えばよいこととなる.そこで,図3のような練習具を作成した.平行法用補助具と同様にレンズを用いず紙製の製作用紙で簡単な工程で製作できる.図4にその製作用紙を掲げる.用紙内には製作手順および簡単な使用法が記述されている.この練習具を用いてピントを合わせる訓練を行い,その技法が体得出来れば,練習具が無くても随意に目のピントをステレオペアに合わせることができるようになる.この練習具は職業訓練指導員のための技能習得研修教材として考案さた.これは紙製の筒の一端をステープルで固定しただけの簡単な構造である.この筒の他端から交差法用に並べたステレオペアの右図を左目で,左図を右目で見る.両図が重なれば,目のピントを合わせる様にすれば,立体視ができる.練習方法を図5に示す.
4. まとめ
一般に,ヒトの目は遠くを見る際には両眼の視線は平行となり,視線間の角度は0°である.一方,近くのものを見る際には両眼の視線の交点にある視対象を見る.もし,視対象がなく,両視線の延長上にそれぞれの眼用のステレオペア図があれば,ピントは合っていないながら,これらは重なって見える.そこで,これらがはっきり見えるように目のピントを合わすことができれば,立体視ができることとなる.見たいステレオペア以外のものが見えなければ,よりピントが合わせやすい.ここで紹介した補助具や練習具は見たいステレオペア以外の「背景」や「周囲」を見えなくするための装置として使用される.
参考文献
こどものためのジオ・カーニバル企画委員会(2023):第23回こどものためのジオ☆カーニバル, http://geoca.org/geo2023.html (2024.2.14.閲覧).
広内哲夫(2013):立体視の原理と3D技術への応用,情報システム学会誌,Vol. 8, No. 2, pp. 5-16.
国土地理院(2017):地理院地図Globeの正式公開,http://www.gsi.go.jp/common/000185126.pdf (2024.2.14.閲覧).
領木邦浩(2019):地理院地図Globeを利用したシームレス地理情報ステレオビュワー,日本情報地質学会講演会講演要旨集,30, 31-32.
領木邦浩(2023):情報地球学におけるソーシャルメディアコンテンツと3D-Movieの裸眼立体視Webアプリケーションによる利活用, JpGU Meeting 2023, G01-P02.
職業能力開発総合大学校研修部(2023):裸眼立体視技能訓練による地理情報システムGISとVR動画の活用,研修要項,p. 110.
宇宙教育センター(2009):立体視の原理を知って立体写真を楽しもう! -立体視装置(ステレオビュアー)-,宇宙航空研究開発機構,https://edu.jaxa.jp/materialDB/contents/material/pdf/78859.pdf (2024.2.14.閲覧)
YouTube(2024):YouTubeの取り組み,YouTubeのしくみとは?,https://www.youtube.com/intl/ALL_jp/howyoutubeworks/ (2024.2.14.閲覧).
各種の地理情報は,地理学分野の教育・研究に限らず地質学や土木工学をはじめとした諸研究に不可欠なものである.近年の情報科学の進展に伴い,各種の画像・映像として広く地理情報の提供されてきている.これらの地理情報のうち,一定の条件を満たすコンテンツは容易にステレオペア化して立体視可能であることが指摘され(領木(2019)など),地理院地図Globe(国土地理院,2017)を表示するツールSVw (領木, 2019)やローカルマシンにユーザーが保有する動画ファイルまたはYouTube (2024)に公開された動画を再生するツールSWd(領木, 2023)が公開された.これらのツールをこども向けのイベント(ジオカーニバル実行委員会,2023)や職業訓練指導員研修(職業能力開発総合大学校研修部,2023)などで多くの方に紹介したところ,一般の方はもちろんのこと,一定年齢より若い応用地質業務に携わる技術者や関連技術技能を教育訓練する指導員・中等教育諸学校理科教員等のほとんどが裸眼立体視の技能を体得しておらず,その技法が存在することを知らないとの感想を述べた.そこで,簡易な工作等で作成できる平行法立体視の補助具及び交差法立体視の練習具を考案した.
2. 平行法立体視用補助具
平行法による対画像の立体視は写真技術の発明以前にすでに考案されており(広内,2013),写真の普及と共に立体視のための閲覧用装置であるステレオスコープは多くのものが考案・市販されている.また,凸レンズを用いた科学工作教材も公表されている(例えば,宇宙教育センター(2009)).しかし,これらは凸レンズが用いられているため製作工程が複雑である.そこで,上述のこども向けのイベントにおいて,凸レンズを用いずに平行法立体視を行うための簡易な紙製の補助具(図1)を考案して使用した.図2にA4サイズの製作用紙を示す.用紙内には製作手順および簡単な使用法が記述されている.
3. 交差法立体視用練習具
平行法では視線を平行に保つため,両眼の瞳孔距離以上の大きさのステレオペアは使用できない.一方,交差法では両眼の視線を交差させるので,例えば集合教育の場で教室前方に置かれたスクリーンに投影したステレオペアを全員で立体視することが可能になる.これは集合教育を行う上で大変有用な特性である.ヒトはいわゆる「より目」をして任意の点に目のピントを合わせることに慣れていない.しかし,目のピントを合わせる筋肉は随意筋であるため,訓練を行えば視線の交点にピントを合わせることが可能となる.初学者が交差法を行う際に対象の図にピントを合わせることが困難となる主な理由は,見たい図以外のものも見えているためである.従って,見たい2枚の図だけを重ねて見る工夫を行えばよいこととなる.そこで,図3のような練習具を作成した.平行法用補助具と同様にレンズを用いず紙製の製作用紙で簡単な工程で製作できる.図4にその製作用紙を掲げる.用紙内には製作手順および簡単な使用法が記述されている.この練習具を用いてピントを合わせる訓練を行い,その技法が体得出来れば,練習具が無くても随意に目のピントをステレオペアに合わせることができるようになる.この練習具は職業訓練指導員のための技能習得研修教材として考案さた.これは紙製の筒の一端をステープルで固定しただけの簡単な構造である.この筒の他端から交差法用に並べたステレオペアの右図を左目で,左図を右目で見る.両図が重なれば,目のピントを合わせる様にすれば,立体視ができる.練習方法を図5に示す.
4. まとめ
一般に,ヒトの目は遠くを見る際には両眼の視線は平行となり,視線間の角度は0°である.一方,近くのものを見る際には両眼の視線の交点にある視対象を見る.もし,視対象がなく,両視線の延長上にそれぞれの眼用のステレオペア図があれば,ピントは合っていないながら,これらは重なって見える.そこで,これらがはっきり見えるように目のピントを合わすことができれば,立体視ができることとなる.見たいステレオペア以外のものが見えなければ,よりピントが合わせやすい.ここで紹介した補助具や練習具は見たいステレオペア以外の「背景」や「周囲」を見えなくするための装置として使用される.
参考文献
こどものためのジオ・カーニバル企画委員会(2023):第23回こどものためのジオ☆カーニバル, http://geoca.org/geo2023.html (2024.2.14.閲覧).
広内哲夫(2013):立体視の原理と3D技術への応用,情報システム学会誌,Vol. 8, No. 2, pp. 5-16.
国土地理院(2017):地理院地図Globeの正式公開,http://www.gsi.go.jp/common/000185126.pdf (2024.2.14.閲覧).
領木邦浩(2019):地理院地図Globeを利用したシームレス地理情報ステレオビュワー,日本情報地質学会講演会講演要旨集,30, 31-32.
領木邦浩(2023):情報地球学におけるソーシャルメディアコンテンツと3D-Movieの裸眼立体視Webアプリケーションによる利活用, JpGU Meeting 2023, G01-P02.
職業能力開発総合大学校研修部(2023):裸眼立体視技能訓練による地理情報システムGISとVR動画の活用,研修要項,p. 110.
宇宙教育センター(2009):立体視の原理を知って立体写真を楽しもう! -立体視装置(ステレオビュアー)-,宇宙航空研究開発機構,https://edu.jaxa.jp/materialDB/contents/material/pdf/78859.pdf (2024.2.14.閲覧)
YouTube(2024):YouTubeの取り組み,YouTubeのしくみとは?,https://www.youtube.com/intl/ALL_jp/howyoutubeworks/ (2024.2.14.閲覧).