日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 浅部物理探査が目指す新しい展開

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:尾西 恭亮(国立研究開発法人土木研究所)、横田 俊之(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)、磯 真一郎(公益財団法人 深田地質研究所)、木佐貫 寛(応用地質株式会社)

17:15 〜 18:45

[HTT18-P04] 盛土内部のS波速度分布の物理探査による測定

*尾西 恭亮1、大石 佑輔1、鈴木 望夢1 (1.国立研究開発法人土木研究所)

キーワード:表面波探査、微動アレイ探査、S波トモグラフィー探査

1. 物理探査による道路盛土のS波速度分布測定の必要性

 地震や豪雨による土構造物への被害が,近年も継続して生じている。道路盛土の耐震性は,盛土のせん断弾性係数に大きな影響を受ける。盛土の耐震性評価に必要な地盤の強度または弾性係数の測定は,ボーリングにより採取された土質試料を用いた室内試験や貫入試験で行うことが多い。しかし,盛土は異なる土質材料で構成されている場合があり,不均質性を有している。このため,ボーリングなどの離散点における情報により弱点部を見逃さずに把握するためには,調査密度が不足する場合がある。また,離散的な情報だけで,調査密度が十分であるとの確証を得るには,必要以上に高密度で調査を行う必要が生じ,調査の生産性の低下を招く。
 そこで,物理探査による空間方向に連続した情報を利用することにより,ボーリングなどの離散的な情報の空間補間を行うことができ,十分な生産性を維持して地盤調査を実施できる。また,ボーリングや貫入試験は,既に供用中の道路においては,走行路面の下部域など,調査の実施が困難な領域がある。非開削による調査を利用することにより,掘削調査では空白となる領域の情報を得られる場合がある。そこで,本報告では,道路盛土などの浅部地盤内部のS波速度分布の測定に有効な,物理探査手法を紹介する。

2. 物理探査による地盤内部のS波速度の測定手法

原位置におけるS波速度の測定は一般的にPS検層で行われているが,PS検層はボーリング同様に地表点の下方軸上の情報しか得ることができない。これに対して,物理探査を用いることにより,地盤の垂直2次元断面におけるS波速度分布の取得を行うことができる。S波速度分布を取得可能な物理探査は,様々な手法が開発されているが,ここでは,土木分野で実用性の高い手法として,表面波探査,直線微動アレイ探査,S波トモグラフィー探査の3手法を紹介する。

2.1 表面波探査
表面波探査は,人の手によるかけや打撃の振動により,深度10m程度までの地盤内部のS波速度分布を調べることができる。人力による起振で調査が行えるため,斜面地における探査の適用性が高い。また,表面波は,P波やS波に比べて減衰が小さいため,交通振動に強く,幹線道路沿いでも探査が可能である。
 問題点は探査測線が平坦である必要がある点である。斜面の傾斜方向でも探査が可能であるが,斜度が一定である必要がある。道路盛土においては,縦断方向には探査が可能である場合が多いが,横断方向では傾斜が変化する場合が多く,探査を行うことができない。また,探査深度は,一般的な日本の表層地盤において,人力の起振では約10m程度と比較的浅い。
 表面波探査は以上のような長所と短所を有する。2次元垂直断面のS波速度は,他の手法に比べて表面波探査の効率と確実性が高く,表面波探査が実施可能な場所において,探査対象が浅い場合は,表面波探査を選択する。

2.2 直線微動アレイ探査
 表面波探査では探査深度が不十分である場合で,重錘落下等による大がかりな探査の実施が難しい場合は,微動アレイ探査を選択する。微動アレイ探査は,自然振動を長時間取得する。自然振動は,様々な方向から到来するが,この中から受振器の並ぶ方向に伝播する波動の解析を行うために,地表面において2軸以上の方向への配置を必要となる。このため,通常は三角形やL型の配置を行う。
 ここで,微動アレイ探査も表面波探査同様に受振器群が平面上に存在している必要がある。しかし,道路盛土や堤防などのインフラ周辺では,平面が存在している場所は少ない。このため,直線配置による探査が現実的となる。
直線微動アレイ探査は,表面波探査より深い深度の探査が可能である。また,道路で発生する交通振動を信号源として探査が行える。しかし,表面波探査や他の微動アレイ探査と異なり,確実に必要な調査が実施できる可能性が低い。

2.3 S波トモグラフィー探査
 表面波探査や直線微動アレイ探査では,地表面に起伏を有する盛土や堤防の横断面を調査できない。地表面が平坦でない地盤内部のS波速度の取得を行いたい場合には,S波トモグラフィー探査を利用する。
 S波トモグラフィー探査の長所は,起伏のある測線でも探査が行える点である。問題点は,表面波と異なり振動の強度が低く,また減衰量も大きいため,交通量が多い場合などでは,良質な記録の取得が困難となる点である。また,S波の起振は労力を要するため,探査効率が低い。解析結果例を図に示す。

3. まとめ
 道路盛土の耐震性評価に必要となる地盤強度分布の把握に利用可能な,物理探査による地盤内部のS波速度の測定手法を紹介した。表面波探査を中心に,より深部を測定したい場合に直線微動アレイ探査を,掘削が困難な道路下部域の測定を行いたい場合にS波トモグラフィー探査を実施する計画とすると良い。