14:30 〜 14:45
[MAG33-04] 広島熔融粒子断面の微小領域同位体イメージング手法の開発
キーワード:原爆による「黒い雨」、放射性降下物、同位体分析、レーザー共鳴イオン化、高分解能同位体イメージング
【はじめに】広島市の砂浜から発見された球形粒子は高温熔融過程を経ており、「黒い雨」と関連した放射性降下ばいじんの一種の可能性がある。しかしながら、粒子から放射線や核分裂生成物を検出することは、原爆投下からの時間経過や別起源の別粒子の混入も考えれば大変困難であると考えられる。発表者らは飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)装置を開発し、更に、レーザー共鳴イオン化を組み込んだR-SNMS装置へと発展させている。
TOF-SIMSは全元素・同位体が一度に検出、イメージングが可能という特徴はあるものの、複雑な混合物の場合、同重体干渉により元素同定や同位体比分析において課題を残している。一方、R-SNMSは特定の元素の励起準位に対応した波長のレーザー光をイオン化に用いるため、注目元素について、同重体干渉なく、正確な同位体比をもって元素・同位体イメージングが可能となった。そこで、前述の熔融粒子において、核爆発に伴う同位体比異常を検出すれば原爆由来である根拠の一つになると考え、R-SNMSによる熔融粒子の分析に着手した。
【方法】R-SNMS装置は発表者らが独自に開発したものであり、集束イオンビーム(FIB)を一次プローブとするTOF-SIMSと、スパッタされた中性原子を共鳴イオン化するための波長可変(Ti:Sapphire)レーザーから成る。また、今回は共鳴イオン化信号を増強するため、Ti:Sapphireレーザーにより中間励起状態まで励起された原子に対し、フェムト秒レーザーによるトンネルイオン化を同時に行った。これにより、高感度かつ高い元素選択性を両立させることを狙った。試料は砂浜の砂から磁石分離した粒子から球形のものを選び、予めイオンミリング装置により、断面加工を施した後、TOF-SIMS/SNMS装置に導入、分析を行った。
【結果と考察】
熔融粒子はシリカ主成分のものと酸化鉄主成分の二種類があることが分かった。二種類とも大きさ数100 µmの球形であり、断面の観察・分析からは、内部が不均一であり、主成分以外の微結晶や相分離構造が見られた。これらのことから、主成分が熔融する温度まで達した後、ある速度で冷却されたことが分かる。こうした熱履歴は熔融粒子が原爆由来かどうかを判断する一つの材料になると思われる。但し、熱履歴だけでは原爆由来と断定できない。なぜならば、こうした粒子は製鉄、造船、ならびに都市域にも発生源があると思われるからである。
そこで、原爆特有の特徴の一つと思われる熱中性子による同位体比異常について検討した。具体的には、56Feが57Feに壊変する反応である。天然同位体比としては、57Fe/56Feは0.0231であるが、試算の結果、最大で0.04程度まで変化する可能性があることが分かった。次に、市販の純鉄を用い、57Fe/56Fe値をTOF-SIMSモード、共鳴ポンピングSNMSモードで測定したところ、それぞれ、0.0514, 0.0253となり、SNMSモードの方が天然同位体比に近い値が得られることが分かった。大きな理由はTOF-SIMSでは水素付加イオンが同重体となることが挙げられる。次に、任意に選択した一つの熔融粒子について同様の測定をしたところ、0.0280であり、純鉄試薬の0.0253よりもバラツキを含めて有意な差異が見られた。これをもってこの粒子が原爆由来と確定することはできないが、試算上の上限値 0.04 よりも低い範囲で有意な差が見られたことは熔融粒子の起源を探るうえでFe同位体比が重要な情報となり得る可能性を示すことができた。
TOF-SIMSは全元素・同位体が一度に検出、イメージングが可能という特徴はあるものの、複雑な混合物の場合、同重体干渉により元素同定や同位体比分析において課題を残している。一方、R-SNMSは特定の元素の励起準位に対応した波長のレーザー光をイオン化に用いるため、注目元素について、同重体干渉なく、正確な同位体比をもって元素・同位体イメージングが可能となった。そこで、前述の熔融粒子において、核爆発に伴う同位体比異常を検出すれば原爆由来である根拠の一つになると考え、R-SNMSによる熔融粒子の分析に着手した。
【方法】R-SNMS装置は発表者らが独自に開発したものであり、集束イオンビーム(FIB)を一次プローブとするTOF-SIMSと、スパッタされた中性原子を共鳴イオン化するための波長可変(Ti:Sapphire)レーザーから成る。また、今回は共鳴イオン化信号を増強するため、Ti:Sapphireレーザーにより中間励起状態まで励起された原子に対し、フェムト秒レーザーによるトンネルイオン化を同時に行った。これにより、高感度かつ高い元素選択性を両立させることを狙った。試料は砂浜の砂から磁石分離した粒子から球形のものを選び、予めイオンミリング装置により、断面加工を施した後、TOF-SIMS/SNMS装置に導入、分析を行った。
【結果と考察】
熔融粒子はシリカ主成分のものと酸化鉄主成分の二種類があることが分かった。二種類とも大きさ数100 µmの球形であり、断面の観察・分析からは、内部が不均一であり、主成分以外の微結晶や相分離構造が見られた。これらのことから、主成分が熔融する温度まで達した後、ある速度で冷却されたことが分かる。こうした熱履歴は熔融粒子が原爆由来かどうかを判断する一つの材料になると思われる。但し、熱履歴だけでは原爆由来と断定できない。なぜならば、こうした粒子は製鉄、造船、ならびに都市域にも発生源があると思われるからである。
そこで、原爆特有の特徴の一つと思われる熱中性子による同位体比異常について検討した。具体的には、56Feが57Feに壊変する反応である。天然同位体比としては、57Fe/56Feは0.0231であるが、試算の結果、最大で0.04程度まで変化する可能性があることが分かった。次に、市販の純鉄を用い、57Fe/56Fe値をTOF-SIMSモード、共鳴ポンピングSNMSモードで測定したところ、それぞれ、0.0514, 0.0253となり、SNMSモードの方が天然同位体比に近い値が得られることが分かった。大きな理由はTOF-SIMSでは水素付加イオンが同重体となることが挙げられる。次に、任意に選択した一つの熔融粒子について同様の測定をしたところ、0.0280であり、純鉄試薬の0.0253よりもバラツキを含めて有意な差異が見られた。これをもってこの粒子が原爆由来と確定することはできないが、試算上の上限値 0.04 よりも低い範囲で有意な差が見られたことは熔融粒子の起源を探るうえでFe同位体比が重要な情報となり得る可能性を示すことができた。