15:45 〜 16:00
[MAG33-06] 広島原爆時に発生した「黒い雨」の数値的再現
キーワード:広島原爆、黒い雨、数値気象モデル、歴史的再解析
そもそも、原子力爆弾の爆発にともない、どうして雨が降ったのか?砂漠地帯にある核実験場で大気中核実験を実施しても、おそらく雨は降らない。大気が乾燥しているので降水の原料となる「水」が存在しないからである。降水は、発達した積雲対流によりもたらされ、核爆発は積雲対流を発生させるトリガーとなる。広島や長崎の黒い雨は、夏の日本の湿潤な大気成層の中で、原爆やそれに引き続く街区火災がトリガーとなり雨が降ったと考えられる。スーパー・セル・ストームの理想数値実験では、1014-1015 [J]のエネルギーを持つバブル(正の温度変位)をトリガーとして与える。広島原爆の総エネルギーは、O(1013) [J] と見積もられており、総量は大きくないが、狭い範囲に集中しているのが特徴である。街区火災のエネルギーはこれにくらべてはるかに大きく継続性があるため、積雲対流を発生維持する原動力となる。この研究では、米国大気科学研究センターで開発されたWeather Research and Forecasting (WRF) Modelを用いたダウンスケール計算により、広島を中心とする中国地方の局地気象を計算し、原爆爆発とそれに引き続く街区火災を熱源として、どのような降水や物質の沈着が生じたであろうか、その実像に数値的に迫る。
過去の気象を再現するには、気象データが必要である。1945年当時は高層気象観測などほとんど存在しない時代で、局地気象モデルの入力とする再解析データも作成されていなかった。しかし最近、20CRv3やERA-20C、OCADAなど、地上気圧のみを観測データとして用いて再解析を実施して得られた歴史的再解析データとよばれるデータが、米国海洋大気庁、欧州中期予報センター、気象庁気象研究所より公開された。これらのデータを用いて、大きく過去に遡ったダウンスケール計算がまがりなりにも可能となった。歴史的再解析データは、入力する気象観測の少なさを補うために、計算条件が少しずつ異なる計算のアンサンブル平均として作製されているので、アンサンブル・メンバーのばらつき幅をいつも考慮する必要がある。一方ごく最近、欧州中期予報センターが1940年まで遡った現代版再解析データ(ERA5)を公開した。高層気象観測データの不足はERA5でも同じであるが、少ないながら高層観測が同化に利用されていること、地上気象観測に関しては気圧以外の観測要素も用いたフルスペックのデータ同化が行われている等のメリットがある。一方、計算結果の検証に用いるためのデータとして、中国・四国地方の気象観測所の日原簿から、原爆投下日前後の地上気象観測データをデジタル化し、計算結果の比較にもちいた。
広島に原爆が投下された1945年8月6日は、太平洋高気圧が西日本から朝鮮半島までを覆う、俗に「鯨の尻尾型」と呼ばれる気圧配置で、海陸風や山谷風など局地循環が卓越する暑い日であった。このように総観規模の強制が弱い場は、モデル予測が難しい。そこで、入力気象データと検証用の気象観測データが充実している近年の類似事例を対象として、モデルの堅牢性や物理パラメタリゼーションの適切性を確認する計算から始めた。1945年8月6日の黒い雨再現計算では、20CRv3, OCADA, ERA5の3つの異なる気象入力を用いた計算をそれぞれ実施した。ERA5とOCADAについては、それぞれ10個、80個のアンサンブル・メンバーを用いた計算も実施して結果のばらつき示した。これまでに得られた結果の計算の概要は以下: 爆発・街区火災を熱源として積雲対流が発生し降水をもたらす。 街区火災熱源の効果が原爆熱源効果よりも大きい 計算された降水域は、サイズ的にはこれまで報告されている分布と同等であるが、形状や分布方向には少なからぬ差異がある。特に歴史的再解析データを用いた計算では、アンサンブル・メンバー間のばらつきが大きく、計算結果の不確実性が大きい。 講演では、放射性物質の拡散・沈着計算結果についても言及する。
過去の気象を再現するには、気象データが必要である。1945年当時は高層気象観測などほとんど存在しない時代で、局地気象モデルの入力とする再解析データも作成されていなかった。しかし最近、20CRv3やERA-20C、OCADAなど、地上気圧のみを観測データとして用いて再解析を実施して得られた歴史的再解析データとよばれるデータが、米国海洋大気庁、欧州中期予報センター、気象庁気象研究所より公開された。これらのデータを用いて、大きく過去に遡ったダウンスケール計算がまがりなりにも可能となった。歴史的再解析データは、入力する気象観測の少なさを補うために、計算条件が少しずつ異なる計算のアンサンブル平均として作製されているので、アンサンブル・メンバーのばらつき幅をいつも考慮する必要がある。一方ごく最近、欧州中期予報センターが1940年まで遡った現代版再解析データ(ERA5)を公開した。高層気象観測データの不足はERA5でも同じであるが、少ないながら高層観測が同化に利用されていること、地上気象観測に関しては気圧以外の観測要素も用いたフルスペックのデータ同化が行われている等のメリットがある。一方、計算結果の検証に用いるためのデータとして、中国・四国地方の気象観測所の日原簿から、原爆投下日前後の地上気象観測データをデジタル化し、計算結果の比較にもちいた。
広島に原爆が投下された1945年8月6日は、太平洋高気圧が西日本から朝鮮半島までを覆う、俗に「鯨の尻尾型」と呼ばれる気圧配置で、海陸風や山谷風など局地循環が卓越する暑い日であった。このように総観規模の強制が弱い場は、モデル予測が難しい。そこで、入力気象データと検証用の気象観測データが充実している近年の類似事例を対象として、モデルの堅牢性や物理パラメタリゼーションの適切性を確認する計算から始めた。1945年8月6日の黒い雨再現計算では、20CRv3, OCADA, ERA5の3つの異なる気象入力を用いた計算をそれぞれ実施した。ERA5とOCADAについては、それぞれ10個、80個のアンサンブル・メンバーを用いた計算も実施して結果のばらつき示した。これまでに得られた結果の計算の概要は以下: 爆発・街区火災を熱源として積雲対流が発生し降水をもたらす。 街区火災熱源の効果が原爆熱源効果よりも大きい 計算された降水域は、サイズ的にはこれまで報告されている分布と同等であるが、形状や分布方向には少なからぬ差異がある。特に歴史的再解析データを用いた計算では、アンサンブル・メンバー間のばらつきが大きく、計算結果の不確実性が大きい。 講演では、放射性物質の拡散・沈着計算結果についても言及する。