日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG33] 原爆による「黒い雨」領域の推定に関する基礎的研究

2024年5月31日(金) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:五十嵐 康人(京都大学複合原子力科学研究所)、遠藤 暁(広島大学大学院先進理工系科学研究科)、横山 須美(長崎大学)、石川 裕彦(京都大学複合原子力科学研究所)

17:15 〜 18:45

[MAG33-P10] 金屏風(洋金箔)は広島の原爆で発生した「黒い雨」で溶解した

*向井 中1,2、足立 友紀1、東江 直樹1、芝原 雄司1池上 麻衣子1、八島 浩1、福谷 哲1高宮 幸一1五十嵐 康人1、井上 淳2、栗原 雄一3 (1.京都大学複合原子力科学研究所、2.大阪公立大学、3.長岡技術科学大学)

キーワード:黒い雨、酸性雨、金屏風、洋金箔、硫酸銅水和物

【はじめに】1945年の広島・長崎への原爆投後に発生した「黒い雨」降雨域の推定に関する調査や研究報告と共に、「黒い雨」自体についての研究が実施されてきたものの、これらは放射性物質という視点が主であり、雨自身の主成分に関しては煤に関する研究(Fields DE, 1989 [1])以外見受けられない。しかしながら「黒い雨」の成分は放射性物質以外の物証として降雨域を推定する指標になる可能性もあり、問題の原点となる調査として重要である。2022年、新たに「黒い雨」の痕跡が残る金屏風(洋金箔)が発見され、広島平和記念資料館学芸課の方々と共に調査・採取し、分析した結果、その本質に迫ることができたので紹介する。
【採取試料】金屏風の対照品1点、黒色痕跡3点を切り取り、試料とした。
【分析方法と結果】「黒い雨」痕跡部分を光学顕微鏡の光路を上下に変更して観察した結果、この黒色痕跡部分の洋金箔(亜鉛を含む銅合金)は消失し、下から光が透けていた(Fig.1,2)。黒色痕跡に残存する洋金箔片についてSEM/EDX分析を実施した結果、黒色物に含有される元素のうち窒素(N)、硫黄(S)が洋金箔の銅(Cu)を溶解していると判断され、硝酸(N)と硫酸(S)の存在が示唆された。黒色痕跡についてXRDによる化合物特定を実施した結果、硫酸銅水和物(推定)を認めるものの、硝酸銅化合物については検出されなかった。硝酸・硫酸によるモデル金屏風片の腐食模擬実験の結果より、「黒い雨」の液性はpH3より酸性であった可能性が高い。
参考文献:[1] Fields DE, Cole LL, Summers S, Yalcintas MG, Vaughan GL. Generation of aerosols by urban fire storm. Aerosol Sci Technol 10:28 –36; 1989.
謝辞:本調査研究は厚生労働省からの受託により進められた。記して感謝します。広島平和記念資料館の皆様、特に学芸課の方々、貴重な遺品をご提供頂いた御遺族、モデル金屏風のサンプルをご提供頂いた(株)歴清社様、分析に協力頂いた京都大学大学院医学研究科電子顕微鏡室(解剖センター)勝野達也先生、当所 奥地拓生先生、(地独)大阪産業技術研究所の方々に深く感謝申し上げます。