日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-GI 地球科学一般・情報地球科学

[M-GI24] Data assimilation: A fundamental approach in geosciences

2024年5月30日(木) 09:00 〜 10:15 104 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:中野 慎也(情報・システム研究機構 統計数理研究所)、藤井 陽介(気象庁気象研究所)、三好 建正(理化学研究所)、加納 将行(東北大学理学研究科)、座長:大石 俊(理化学研究所 計算科学研究センター)、中野 慎也(情報・システム研究機構 統計数理研究所)

09:30 〜 09:45

[MGI24-03] 領域アンサンブル変分法への全球誤差共分散の導入

*中下 早織1榎本 剛2,3 (1.京都大学理学研究科、2.京都大学防災研究所、3.海洋研究開発機構)

キーワード:アンサンブル変分法、ネスティングシステム

本研究では、全球解析の情報を取り入れることで、ネスティングシステムにおける最適な領域解析を得ることを試みる。

領域大気モデルは全球大気モデルから得られる側方境界条件を必要とする。領域大気モデルでは、計算範囲や観測数に制約があるため、全球モデルよりも大規模な構造の精度が悪化することがある。このようなラージスケールの誤差は、台風や総観規模の前線などの擾乱の位置ずれの原因となり、領域同化が持つ対流スケールの解析性能に悪影響を与える。ラージスケールの誤差を軽減するために、全球解析と領域解析をスケールに応じてブレンドする手法がいくつか提案されているが、これらのブレンド手法は個々の解析の最適性を阻害する可能性がある。

Guidard and Fischer (2008)とDahlgren and Gustafsson (2012)は、領域解析における変分法に全球解析または全球予測を情報として追加することで、領域解析の精度を改善しうるという結果を報告している。しかし彼らの定式化は、実装を単純化するために誤差相関についていくつかの仮定を必要とし、全球と領域の予測誤差の相互共分散を無視している。

本研究では、これらの誤差相関への仮定を緩和し、予測誤差の流れ依存性を考慮するために、彼らの定式化をアンサンブル変分法の枠組みに拡張する。本研究で提案する手法では、全球の情報を追加したコスト関数において、領域の予測誤差共分散に加えて全球の誤差共分散も全球アンサンブルを利用して推定する。この変更により、相互共分散を考慮した定式化への拡張も簡単になる。

まず、Baxter et al. (2011)の実験設定を参考に、一次元周期正弦波に対する同化実験において、提案手法を従来の同化手法や先行研究と比較した。この実験では、従来のように領域内の情報のみを考慮して同化を行うと、低波数域の誤差が悪化する。先行研究の拡張法は、特に観測数が限られている場合に、このようなラージスケールの誤差を統計的に有意に改善する。本研究で提案する手法も想定通り大規模な誤差を改善するが、おそらくサンプリング誤差の影響と流れ依存性がないために、統計的有意性は先行研究ほど高くなかった。次に、Lorenz(2005)によって提案された一次元カオスモデルを用いて一方向ネスティングシステムを構築し、サイクル同化実験を行った。この実験では、流れ依存性を考慮することで解析に大きな影響があった。本研究および先行研究の拡張手法の性能は、全球同化の質に大きく依存することがわかった。発表では、全球と領域の予測誤差の相互共分散を考慮した場合のインパクトについても議論する。