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[MIS07-P01] 模擬隕石母天体環境で生成するアミノ酸前駆体を含む高分子化合物のキャラクタリゼーション
キーワード:アミノ酸、アミノ酸前駆体
1. 緒言
生命の誕生にはアミノ酸や糖、核酸塩基などの生体物質が必要不可欠である。これらの有機物の生成の起源として、地球外からもたらされたという考えがあり、この可能性を裏付ける研究結果として、1969年にオーストラリアに落下したMurchison隕石からアミノ酸が発見されたこと[1]などが挙げられる。このような宇宙空間でのアミノ酸生成場の候補として、星間環境と隕石母天体内部が挙げられる。先行研究より、アミノ酸の一部は加水分解するとアミノ酸を生じるようなアミノ酸前駆体として存在することと、そのアミノ酸前駆体が隕石母天体内部や星間環境で生成しうることが明らかになっている[2,3]。また、星間環境で生じるアミノ酸前駆体は高分子のものが多いことも示唆されている[4]。
隕石母天体内部で生じるアミノ酸前駆体の性質はよくわかっていないことから、本研究では、隕石母天体内部の環境を模擬して、模擬星間物質(ホルムアルデヒド、アンモニア、メタノール、水の混合物)に対して26Alの崩壊を模擬したγ線を照射し、生成したアミノ酸前駆体を含む高分子化合物のキャラクタリゼーションを行った。
2. 実験方法
出発物質の組成をHCHO:NH3:CH3OH:H2O=5:5:1:100としてガラス管に真空封管し、東京工業大学の60Co線源を用いてγ線照射を行った(以下、この生成物をFAWと表記する)。その後、ゲル濾過クロマトグラフィー(Shodex OHpak SB-802.5 HQ , 6 μm, 8.0 mm × 300 mm)を用いてFAWの分取実験を行った。分取した各区間について酸加水分解(6M HCl, 110℃, 24h)した後、超高速液体クロマトグラフィー (NexeraX2)を用いてアミノ酸分析を行い、各区間でアミノ酸生成量がどのように異なるかを検証した。
3. 結果および考察
ゲル濾過クロマトグラフィーのクロマトグラムから、アミノ酸前駆体の候補の一つであるヒダントインはFAWから検出されなかった。また、同じくアミノ酸前駆体の候補の一つであるアミノアセトニトリルについては、分取実験において、アミノアセトニトリルが含まれると考えられる区画からのアミノ酸生成量は他の区画よりも少なかった。以上から、アミノアセトニトリルとヒダントインは主要なアミノ酸前駆体ではないと考えられる。
また、生成したアミノ酸総量は区画によって異なり、さらにその区画ごとの割合はアミノ酸の種類によって大きく異なった。特にβ-Alaについては他のアミノ酸と異なり、低分子量の化合物が溶出すると考えられる区画での生成量が最も多かった。これらのことから、FAW中に生成したアミノ酸前駆体の平均的な分子量は、その前駆体から生成しうるアミノ酸の種類によって大きく異なると考えられる。
4. 結論
各種アミノ酸の生成量から、アミノ酸前駆体の平均的な分子量は、生成しうるアミノ酸の種類によって大きく異なることが示唆された。また、本実験で用いた隕石母天体内部環境を模擬したサンプルにおいて、アミノアセトニトリルとヒダントインは主要なアミノ酸前駆体ではないと考えられる。
5. 参考文献
[1] Kvenvolden K. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 68, 486-490 (1971).
[2] Kebukawa Y. et al., ACS Cent. Sci., 8, 1664-1671 (2022).
[3] Kasamatsu, T. et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 70, 1021-1026 (1997).
[4] Kobayashi, K. et al., Astrobiology: from Simple Molecules to Primitive Life, ed. by V. Basiuk, American Scientific Publishers, Valencia, CA, (2010), pp. 175-186.
生命の誕生にはアミノ酸や糖、核酸塩基などの生体物質が必要不可欠である。これらの有機物の生成の起源として、地球外からもたらされたという考えがあり、この可能性を裏付ける研究結果として、1969年にオーストラリアに落下したMurchison隕石からアミノ酸が発見されたこと[1]などが挙げられる。このような宇宙空間でのアミノ酸生成場の候補として、星間環境と隕石母天体内部が挙げられる。先行研究より、アミノ酸の一部は加水分解するとアミノ酸を生じるようなアミノ酸前駆体として存在することと、そのアミノ酸前駆体が隕石母天体内部や星間環境で生成しうることが明らかになっている[2,3]。また、星間環境で生じるアミノ酸前駆体は高分子のものが多いことも示唆されている[4]。
隕石母天体内部で生じるアミノ酸前駆体の性質はよくわかっていないことから、本研究では、隕石母天体内部の環境を模擬して、模擬星間物質(ホルムアルデヒド、アンモニア、メタノール、水の混合物)に対して26Alの崩壊を模擬したγ線を照射し、生成したアミノ酸前駆体を含む高分子化合物のキャラクタリゼーションを行った。
2. 実験方法
出発物質の組成をHCHO:NH3:CH3OH:H2O=5:5:1:100としてガラス管に真空封管し、東京工業大学の60Co線源を用いてγ線照射を行った(以下、この生成物をFAWと表記する)。その後、ゲル濾過クロマトグラフィー(Shodex OHpak SB-802.5 HQ , 6 μm, 8.0 mm × 300 mm)を用いてFAWの分取実験を行った。分取した各区間について酸加水分解(6M HCl, 110℃, 24h)した後、超高速液体クロマトグラフィー (NexeraX2)を用いてアミノ酸分析を行い、各区間でアミノ酸生成量がどのように異なるかを検証した。
3. 結果および考察
ゲル濾過クロマトグラフィーのクロマトグラムから、アミノ酸前駆体の候補の一つであるヒダントインはFAWから検出されなかった。また、同じくアミノ酸前駆体の候補の一つであるアミノアセトニトリルについては、分取実験において、アミノアセトニトリルが含まれると考えられる区画からのアミノ酸生成量は他の区画よりも少なかった。以上から、アミノアセトニトリルとヒダントインは主要なアミノ酸前駆体ではないと考えられる。
また、生成したアミノ酸総量は区画によって異なり、さらにその区画ごとの割合はアミノ酸の種類によって大きく異なった。特にβ-Alaについては他のアミノ酸と異なり、低分子量の化合物が溶出すると考えられる区画での生成量が最も多かった。これらのことから、FAW中に生成したアミノ酸前駆体の平均的な分子量は、その前駆体から生成しうるアミノ酸の種類によって大きく異なると考えられる。
4. 結論
各種アミノ酸の生成量から、アミノ酸前駆体の平均的な分子量は、生成しうるアミノ酸の種類によって大きく異なることが示唆された。また、本実験で用いた隕石母天体内部環境を模擬したサンプルにおいて、アミノアセトニトリルとヒダントインは主要なアミノ酸前駆体ではないと考えられる。
5. 参考文献
[1] Kvenvolden K. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 68, 486-490 (1971).
[2] Kebukawa Y. et al., ACS Cent. Sci., 8, 1664-1671 (2022).
[3] Kasamatsu, T. et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 70, 1021-1026 (1997).
[4] Kobayashi, K. et al., Astrobiology: from Simple Molecules to Primitive Life, ed. by V. Basiuk, American Scientific Publishers, Valencia, CA, (2010), pp. 175-186.