日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS08] ジオパーク

2024年5月27日(月) 09:00 〜 10:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学大学院理工学研究科)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、道家 涼介(弘前大学大学院理工学研究科)、座長:大野 希一(一般社団法人 鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

09:00 〜 09:15

[MIS08-01] 「水のジオパーク」の軌跡ー白山手取川UGGpの設立準備からUGGp認定までを振り返ってー

★招待講演

*青木 賢人1 (1.金沢大学地域創造学類)

キーワード:白山手取川ユネスコ世界ジオパーク、水、外的営力、ジオストーリー

【はじめに】
 2023年5月に白山手取川ジオパークは,ユネスコ世界ジオパークの認定を受けた.学術委員として基本構想立案から世界認定まで関わった経験を踏まえ,白山手取川Gpが「水」をテーマとした経緯,およびUGGp認定をめぐる雑感を述べたい.「水」をテーマとしたことには,卓越した価値の説明に学術的な限界性があった一方で,市民との連携には大きな効果が得られたという両面性があった.外向け(学術的)の説明と,内向け(市民・ジオツアー)の説明で重点の置き方を変えることで,対応している実態がある.

【「水」をテーマとしたジオパークの設立経緯】
 白山手取川Gpが日本ジオパークの認定を受けたのは2011年.2008~2010年に認定された14地域に続く認定地域となった.それまでの14地域の主要なテーマの内訳は,火山5地域,地殻変動5地域,地質構造・化石4地域であった.
 白山市は2005年に1市2町5村が合併して誕生した市であり,地域の一体化と地域アイデンティティの構築が重要な課題となっていた.2009年に隣接する勝山市が日本ジオパークに認定されたことを受け,2010年5月の市議会でジオパークが一般質問に取り上げられ,当時の市長は「本市の認知度の向上」や「白山ろくの活性化」の観点から同年9月の市議会で事業費を補正予算に計上し,同年11月には推進協議会を発足させた.同時に発足した学術委員会で議論されたことが「市の一体化を図るために,人口が多い平野部の住民に対して訴求力があるテーマ設定を行うこと」であった.そこで,白山市全域にとって共通して重要な「大地」である手取川に注目したテーマ設定を行うこととなった.河川が主対象となることから,水循環とそれに伴う地形・地質現象,生物・人間社会とのかかわりをジオストーリーの中核に位置付けた「山ー川ー海そして雪 命をはぐくむ水の旅」が当初のテーマとなった.水は資源として可視化しやすく,ジオと人の関係に対する地域住民の理解度が高くなるとともに,白山山頂から河口までを一体的なストーリーとして位置づけることができ,「地域の一体感の醸成」という行政課題に対して有効な設定であると判断している.テーマの設定に際して懸念したことは以下の2点である.

①「ジオ・エコ・人」モデルのジオについて,「地圏・水圏・気圏」の三圏に概念を拡張しなければならなかったこと
②中核的なジオストーリーである「水循環」「水文地形学的プロセス」が普遍的な事象であること

 固体地球や内的営力に起因する地学的現象が注目されていた当時,外的営力に注目したジオパークを提案することは挑戦的であった.「水パーク」と揶揄された一方で,地形学者や地理学者からは評価を得ていた.

【UGGp認定までの「水」の扱われ方】
 白山手取川Gpが「水」を主テーマとしたことは,UGGp認定のプロセスにおいても様々な影響を与えた.
 白山手取川Gpは,2013年と2015年に国内推薦の審査を受け,見送りになっている.2013年はジオパークコミュニティ内においても「水をテーマとしたジオパーク」の認知度・理解度が低いことを踏まえ,そのまま審査に入ってもミスマッチが生じると考え,推薦を得ること以上に「水」をテーマとした意義を理解してもらうことを優先した公開プレゼンを行っている(1).一方,2015年は本格的に推薦獲得に向けた活動を行った.この時の見送りの理由は「(水をテーマとすることの)国際的な価値をもつという学術的説明が不足している」(2)というものであり,普遍的な事象を核としたジオパークの構築の限界を見せつけられた形となった.2020年に推薦が決定した際には,核となる大地の遺産を化石産地に変更し,「水」のストーリーを副次的なテーマとする,いわば「使い分け」をする形となっている(3).
 一方で,2020年の推薦獲得の際に高い評価を得た「地域団体との連携」や「担い手育成」の相手となる地域の市民からは「水」のテーマ設定が高い理解と評価を得ている.「白山手取川ジオパーク水リレー」が多くの市民の参加を得て成功したことも,その証左である.ユネスコ現地審査員の評価においても,水が作り出した大地や水を介した大地と人の結びつきにも高い関心と評価が得られている.
 
(1)https://youtu.be/cmv69wAPZgw?si=V8r4obzxpjq_q7na
(2)https://jgc.geopark.jp/files/20150904-01.pdf
(3)https://jgc.geopark.jp/files/20201021.pdf