日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 地球科学としての海洋プラスチック

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)

17:15 〜 18:45

[MIS09-P06] プラスチックキャップに形成された生態系とその由来

*土屋 正史1、自見 直人2美山 透3石村 豊穂4、藤本 心太5、波々伯部 夏美1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門、2.名古屋大学大学院理学研究科附属臨海実験所、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門、4.京都大学大学院 人間・環境学研究科、5.山口大学理学部生物学科)

キーワード:海洋プラスチック汚染、浮遊プラスチックごみ、プラごみ生態系、海洋底生生物

プラスチック汚染は海洋の広範囲に渡ることが明らかになってきた.1960年代から現在までに排出されたごみの95%程度は行方不明であると考えられている.残りの5%(約2,500万トン)は海洋に流出し,そのうちの約33%は漂流または漂着していると考えられている.海洋を漂うプラスチックごみなどの浮遊物は生物を運搬するため,地域集団の形成にも影響を及ぼし,新たな生息場への移入の要因となる.一方,生物が付着した浮遊物は,外来生物の移入を促進することから,生物多様性の変動を誘因しうる.輸送の過程とその規模を理解することは,環境変動に伴う生息場の改変による移入種の変化・生物多様性の変動を理解する上でも重要である.
 われわれは海底広域調査船「かいめい(KM22-15 Leg. 2)」航海において,四国沖に形成される黒潮再循環域でニューストンネットにより,海洋表層から多数のプラスチックごみを採取した.採取されたペットボトルキャップには複数の生物が認められ,独自の生態系が形成されていた.本研究では,ペットボトルキャップとそこに生息する生物から海洋ごみの由来を明らかにするとともに,生物の分散様式について推定した.
 採取されたペットボトルキャップには,イソメ科Eunice属多毛類や巻貝類などのマクロベントスと,底生有孔虫などのメイオベントスが生息していた.底生有孔虫はRosalina 属の1種が寡占し(22個体),このほかに底生有孔虫のモノサラメアの生体が3個体,浮遊性有孔虫の遺骸が1個体見つかった.Rosalina属の底生有孔虫は浅海に生息することから,イソメ科多毛類の生息環境と整合的であった.また,本種はさまざまな大きさの個体が存在したため,ペットボトルキャップの中で生活環が回っている可能性がある.生態個体のいくつかの個体では,チャンバーが成長途中から急激に大きくなるなど,生息環境の変化が生じた可能性がある.底生有孔虫殻の酸素同位体による温度履歴と,シミュレーションによる粒子解析から,ペットボトルキャップとそこに生息する生物が辿った経路を明らかにし,採取されたマクロ・メイオベントスの遺伝子解析から,どのような経路で分散が生じたかを議論する.流れ藻や木材などへの生物の付着と分散は,以前より知られており,地質時代を通じて生じている.浮遊プラスチックごみは有機物の基質に比べて分解しにくく,沈まない限り浮遊プラスチックごみの方が浅海底生生物の分散をより促している可能性もある.