日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS09] 地球科学としての海洋プラスチック

2024年5月27日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:磯辺 篤彦(九州大学応用力学研究所)、川村 喜一郎(山口大学)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、土屋 正史(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門)

17:15 〜 18:45

[MIS09-P10] 広島湾における微細マイクロプラスチックの動態ーサイズ分布とポリマータイプの特徴に基づく推察ー

松林 亜美1佐川 奈緒1、*日向 博文1 (1.愛媛大学)

キーワード:微細マイクロプラスチック、沈降速度、海底堆積物、残差流

マイクロプラスチック(MP)の海洋環境中での動態には、サイズやポリマータイプが大きく関わる。Haave et al. (2019)はノルウェーの海底泥を調査し、発見したMPはサイズが小さくなるほど個数が増加することを示した。また、500µm以上よりも500 µm未満のポリマーの種数が増加することを示した。Sagawa et al. (2018)は、300 µm以上5 mm未満のMPを対象に、広島湾海底のMP数密度及びポリマータイプを調査した。その結果、比重が海水よりも小さいMPが海底から多く発見され、特に牡蠣養殖筏で用いられる発泡スチロール(FPS)製フロートを発生源とするFPS製MPが支配的であることを示した。しかし、300 µm未満のMP調査は行われておらず、300 µm未満のFPS汚染状況や、ポリマータイプの変化については議論されていない。本研究では、サイズの違いによるMPの特徴を把握することを目的とし、広島湾海底に堆積した1 mm未満のMP(SMP)の数密度とポリマータイプを調査した。
 広島湾内の南北方向3地点で海底泥を採取した。採泥は、スミス・マッキンタイヤ式採泥器(4.2 L)を用いて1地点につき1回行われた。作業中、大気から混入するMPを船上に静置したガラス瓶で回収し、海底からのMP抽出個数と比べて無視できることを確認した。採取した泥から湿潤50 gを分取し、抽出を行った。抽出は、フェントン試薬による有機物除去,ヨウ化ナトリウム溶液(比重1.7)による比重分離,109 µmメッシュを用いた吸引濾過,実体顕微鏡およびATR・Micro-FTIRを用いたポリマータイプ同定を行った。吸引濾過により109 µmメッシュを通過した溶液は、一部を分取し再度15 µmメッシュで濾過した。分取の際、溶液総量と分取量がMP回収個数に与える影響を調査するため、あらかじめ個数が既知のプラスチックペレットを用いて回収率調査を行った。その結果、溶液総量,分取量に関わらず、全ての検証ケースで回収個数に有意差は無く、本研究で溶液の分取によるMP抽出個数への影響はないことを確認した。
広島湾海底で発見されたMPは20 µm〜999 µmであり、平均数密度は1791万個/m2であった。このうち、99%以上が100 µm未満のSMPであり、サイズが小さくなるほど数密度が増加した。
 スチレン系(ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエン重合体(ABS)およびFPSを含む),ポリエチレン(PE)は1000 µm未満のすべてのサイズで発見された。350 µm以上のサイズでは,スチレン系が56%を占め、Sagawa et al. (2018)と同様にFPS汚染が確認された。一方、350 µm未満ではスチレン系の割合が17%に減少し、エポキシ樹脂(22%,比重1.1)などの海水よりも比重の大きなポリマーが出現した。また、発見されたエポキシ樹脂はすべて150 µm以下であり、サイズが小さくなるほどポリマーの種数が増加することがわかった。
汎用プラスチック(PEやスチレン系など)は、他海域でも多く発見されているが、エポキシ樹脂はほとんど発見されていない(Wang et al., 2021, Eo et al., 2022)。Jaini et al. (2023)より、エポキシ樹脂は船舶の塗料に用いられている。広島湾はプレジャーボートの保有率・投棄率が全国1位であり、湾北部を中心に船舶利用が盛んである。以上から、本研究では、広島湾における船舶を発生源とするエポキシ樹脂のSMP汚染を示したと言える。
しかし、150 µm以上のエポキシ樹脂は発見されなかった。そこで、比重とサイズが海洋中でのエポキシ樹脂の拡散に及ぼす影響を、沈降速度(サイズと比重に依存)及び水平輸送距離(流動モデルの残差流を応用)を簡易的に算出することで推定した。その結果、エポキシ樹脂のサイズが大きいほど沈降速度も大きく、速やかに海底へ沈降する。ゆえに、船舶が停泊している漁港内やマリーナ内の海底に堆積している可能性が考えられる。一方、サイズが小さいものは、大きいものと比べて沈降速度が小さく、海洋中で拡散しやすいことから、湾内へ選択的に輸送されていると考えられる。結果として、本研究ではサイズの大きなエポキシ樹脂は発見されず、150 µm以下のSMPのみが見つかったと考えられる。
今後は、漁港内やマリーナ内の海底泥を採取し、150 µm以上のエポキシ樹脂の数密度やサイズ分布を調査する必要がある。また、河口付近では、ナイロンのような比重及びサイズの大きなポリマーが堆積していると考えられるため、併せて調査する必要がある。