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[MIS10-13] 東南極トッテン氷河堆積物のBe同位体分析に基づく過去200年間の海洋環境復元
キーワード:Be同位体、周極深層水、トッテン氷河、表層海底堆積物
近年,衛星観測から南極氷床が急速な融解傾向を示すことが明らかになってきた.この融解傾向は現場観測により比較的温暖な周極深層水(Circumpolar Deep Water:CDW)流入による棚氷の底面融解が主原因であると明らかになってきたが,CDWの中・長期的な変動や棚氷・氷床変動との関係については未だ不明点が多く残されている.一方近年,南極沿岸堆積物中の10Beと9Be濃度は,それぞれ棚氷・氷床変動のプロキシとして注目を集めている(White et al., 2019 ; Iizuka et al., 2023).そこで本研究は,堆積物中のBe同位体の分布特性の把握と,これを基にした過去約200年間における南極棚氷・氷床変動の復元を試みた.用いた試料は,第61次南極地域観測隊によりCDW流入が観測されているトッテン氷河沖で採取された表層海底堆積物である.Be同位体の分布特性には11地点の最表層,過去の棚氷・氷床変動の復元には2地点 (St.14BとSt.26 )における表層22 cmを対象とした.St.14Bはトッテン氷河の棚氷縁近傍,St.26はダルトンポリニヤに位置する.そして,これらの表層海底堆積物試料に対して,210Pb年代測定,粒度分析,およびBe同位体測定を行った.その結果,Be同位体の分布特性は,10BeはCDWの流入経路の上流,9Beは棚氷縁近傍で高濃度の傾向を示した.従って,10Beは氷床融解水起源というよりCDWの流入を,9Beは南極大陸からの砕屑物供給示すプロキシである可能性が高い.次に,St.14BとSt.26の表層22 cmの8層準で210Pb年代測定を行い,それぞれ1880年と1810年以降から堆積していることが示された.両地点の粒度は,深度方向に大きく変化しないことから比較的安定した堆積環境であったと考えられる.一方,両地点の10Be濃度は比較的一定であったのに対して,St.14Bの9Be濃度は1950年代から現在に向かって増加傾向を示した.この結果は,過去140〜210年間において棚氷縁へのCDW流入は安定していたこと,一方で南極氷床起源の砕屑物供給は増加していたことを示す.つまり,南極氷床・棚氷は1950年以降に融解傾向が加速した可能性が示唆された.これらのデータは,近年の温暖化傾向と南極氷床の融解傾向の関係を理解する上で重要なデータを提供するものであるが,データの空間分布や時間分解能は十分ではない.今後,過去のCDWの変遷と南極氷床変動ダイナミクスを詳しく明らかにするため,さらなる試料の分析を進める予定である.
参考文献
White, D.A., Fink, D., Post, A.L., Simon, K., Golton-Fenzi, B., Foster, S., Fujioka, T., Jeromson, M.R., Blaxell, M. (2019) Beryllium isotope signatures ice shelves and sub-ice shelf circulation,Earth and Planetary Science Letters, 505, 86-95.
Iizuka, M., Seki, O., Wilson, D., Suganuma, Y., Horikawa, K., van de Flierdt, T., Ikehara, M., Itaki, T., Irino, T., Yamamoto, M., Hirabayashi, M., Matsuzaki, H., Sugisaki, S.(2023), Multiple episodes of ice loss from the Wilkes Subglacial Basin during the Last Interglacial, Nature communications,14(1)
参考文献
White, D.A., Fink, D., Post, A.L., Simon, K., Golton-Fenzi, B., Foster, S., Fujioka, T., Jeromson, M.R., Blaxell, M. (2019) Beryllium isotope signatures ice shelves and sub-ice shelf circulation,Earth and Planetary Science Letters, 505, 86-95.
Iizuka, M., Seki, O., Wilson, D., Suganuma, Y., Horikawa, K., van de Flierdt, T., Ikehara, M., Itaki, T., Irino, T., Yamamoto, M., Hirabayashi, M., Matsuzaki, H., Sugisaki, S.(2023), Multiple episodes of ice loss from the Wilkes Subglacial Basin during the Last Interglacial, Nature communications,14(1)
