[M-IS11] 山の科学

[MIS11-06] 飛騨山脈における重力変形研究

★招待講演

*永田 秀尚¹ (1.有限会社風水土)

キーワード：重力変形、地形発達史、構造地質学、飛騨山脈

かつては周氷河地形のひとつと考えられていた多重山稜や線状凹地のほとんどは重力変形によって形成されたものである．このことは日本でも1970年代には認められるようになり，精細DEMによる地形図の普及なども相まって，各地での研究が進みつつある．本講演では，飛騨山脈上高地南東方山地での重力変形地形についての私たちの研究成果を紹介し，また飛騨山脈に各地における重力変形地形を概観して，この地域での研究意義を確認し，課題を提示する．
上高地南東方，徳本峠から蝶ヶ岳に連なる尾根上には延長12kmにわたって多重山稜，線状凹地が連続する．1mDEMによる地形図を用いてこの尾根周辺の地形を判読すると，微地形の分布や配置から，北西向きの重力変形体が認められ，合わせてそれらが分化してゆく発達史が読み取れる．さらに，範囲内の地質調査により，流れ盤斜面での座屈あるいは粘性流動によるS字状の内部構造も推定できた．
飛騨山脈ではこのほかに多くの重力変形地形の発達が認められる．堆積岩体以外に花崗岩体（西穂高，烏帽子岳），火山体（立山）を基岩とするものがある．このような地質の多様性に加え，飛騨山脈では氷河，周氷河地形や活断層地形も発達していることから，これらの地形との識別や時間・空間関係の解析が可能であり，またそれがこの地域での研究の意義であるといえる．さらに，もう一つの課題である変形体の構造解析は，構造地質学や岩盤力学にも寄与するであろう．