日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS12] 古気候・古海洋変動

2024年5月29日(水) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)、岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、小長谷 貴志(東京大学大気海洋研究所)、座長:山崎 敦子(名古屋大学大学院環境学研究科)

15:30 〜 15:45

[MIS12-05] 人新世境界の定義を明確にする全球の人為痕跡の急増シグナル

*加 三千宣1横山 祐典2、Stephen Tims3、Michaela Froehlich3、Leslie, K. Fifield3阿瀬 貴博2、槻木 玲美4、土居 秀幸5齋藤 文紀6,7 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、2.東京大学大気海洋研究所、3.オーストラリア国立大学物理研究スクール、4.松山大学法学部、5.京都大学情報学研究科、6.島根大学エスチュアリー研究センター、7.産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:人新世、人為痕跡数、プルトニウム、核実験、グレートアクセラレーション

1952年のPuの増加シグナルは,人新世の境界を見出すプライマリーマーカーであり,今提案されようとしている人新統の等時性境界の根拠とされている.しかし,核実験による放射能汚染が必ずしも地球全体に影響を及ぼすメジャーフォーシングではなく,広域にわたる地層中に等時性シグナルを与えているにすぎないという議論がある.では,人が地球システムを本質的に変えたと言える人新世下部境界は,どの層序シグナルで,いつと定義されるべきなのか.それに明確に答えた報告はまだない.
本研究では,1950年前後に様々な社会・環境指標にみられる,かつてない急激な人類社会・地球環境システム指標の急変として認識されるグレートアクセラレーションに着目し,その層序学的指標として,地層中の人為痕跡の急増を提案する.別府湾海底堆積物では,人為痕跡の急増が1953年に認められ,これが,地球史上で人類が地球に甚大な影響を及ぼし始めた地層中のグレートアクセラレーションの明確な証拠であると考えられる(Kuwae et al. 2023, The Anthropocene Review).しかし,グローバルで見た場合,その急増ポイントが地層境界認定の条件である等時性シグナルであるかについてはまだ検討されていない.
本研究では,全球をカバーする141地点から得た,年縞堆積物,年輪,サンゴ,氷床コアといった年解像度で年代を決定できる263のプロキシ記録から特定された人為痕跡の年代データセットを構築した.データセットは,過去5700年間をカバーし,安定及び放射性同位体比,球状炭化粒子,PCB,プラスチックなどの人工物の初検出や急増,温室効果ガス濃度,有機地球化学指標,重金属濃度やフラックス,気温,水温,塩分,pH指標のバックグラウンドレベルを初めて超える点,元素や生物群集組成の変化,生物種の最初の検出や非検出,などの748個の人為痕跡で構成される.地域間の標本数の違いなど,データ表現の偏りを除去した13のサブセットを用いて得られた全球の人為痕跡の積算数の変化点解析は,1952年±3年(1SD)の間に急激な増加の開始を示した.ただし,核実験指標を除いた場合は,1940年代に急増が始まる傾向がある.一方,北極域,南極,ヨーロッパ,北米,東アジア,オセアニア,その他の地域ごとに見ると,人為痕跡積算数の傾きの最大値が1953-1957年(1955±2.5年)の間に起こり,痕跡の最大増加率を示すタイミングに明確な等時性が存在することがわかった.また,大気拡散を通じてシグナルの記録の同時性が知られる核実験の人為痕跡を除いた場合は,1949年から1964年(1957±8年)の間にすべての地域で傾きの最大値が認められた.こうした人為痕跡急増のほぼ等時性は,他の時代には認められない.これらのことは,この時期に人による様々な環境への急激かつ甚大な影響が全球に及んだことを示している.これは,まさにグレートアクセラレーションの地質学的表現であり,地層境界認定の等時性の条件を満たすと考えられる.核実験プロキシを含んだ人為痕跡積算数の傾きの最大値が1953-1957年に集中することは,核実験シグナルが人為痕跡の急増ポイントを決定する主要素になっていることを意味する.しかし,それが多様な環境・生態系・物質循環変化を含む地球システム全体の人為攪乱の加速の実態の一つであるとすれば,核実験のシグナルはグレートアクセラレーションを構成する一要素と考えられる.核実験シグナルを含む人為痕跡の急増は1952年±3年の人為痕跡積算値の変化点に始まる.したがって,人新世の始まりを、多様な人為痕跡の急激な増加がはじめて地球全体の地層に現れ始めた時点であると定義すれば、人新世の始まりの年代を1952 ± 3 CE と特定できる。